突然だが質問してやる。
彼女が出来たらどうする?

「そりゃぁお前イチャつくんじゃないか?」

「僕もそう思うよ?」

普通じゃないか普通…
もっと特別な事は無いのかよ?

「まぁ涼宮みたいな女ならもっと別の事しないといけないと思うぜ?」

聞く友人を間違えたようだ。

「なんでハルヒなんだよ…」

唐揚げを口に入れる我がフレンドA。

「なんだ? この期に及んで付き合ってないのか?」

「断じてない」

ハルヒ… ねぇ…
確かに外形はいい。
中身は… なんだろうな… どっかの女王様の魂でも入ってるんじゃないのか?
毎日俺を奴隷のようにこきつかってるしな。

「でもよ! さすがに明日ばかりは神を恨むぜ!」

本日、2月13日金曜日。

男共の決戦日が休日になってしまったのだ。
だから、なのか今日チョコを渡された、と友人Bもとい、国木田から教えてもらった。

「未来がみえねぇなぁ…」

「今日は随分と谷口暗いよ?」

「うるせぇよ… どうせお前は勝ち組だしな…」

周りにはブルーなオーラを出す男共多数。
そのうち一人が机を並べて昼飯を食っている谷口。

「そんなにチョコ欲しいの?」

後ろから聞き慣れた声がした。

「げっ…」

振り返るとそこにはセーラー服が。
視線を上にしていくと、黄色いリボンが。
多分学食帰りなのだろう。

「100円ぐらいのやつならあげるわよ?」

珍しい…
前のハルヒなら

『あんたにあげるチョコなんて無いわよ!!』

なんて言ってそうなのにな。

「それなら逆に貰うと苦しくなるからいらん」

「そっ。 まぁあんたにチョコあげるくらいなら自分で食べるけどね」

やはりハルヒには優しさの破片もないようだ。
一度でいいからハルヒの性格が変わる前の状態を見てみたい気もする。

それだけを言い、ハルヒは自分の席についた。

「キョンは涼宮からは貰えるだろ?」

実際のところわからん。
去年も一昨年も一応貰ったがな・・・ 
今年は1月に入ってからSOS団もあまり活動していない。
なぜか?  それは俺たちが受験生だから、だ。

「心配いらないよ。 多分キョンなら他の女性からも貰えるし」

「他? … って! まさか! 朝比奈さん!?」

谷口が口に入っていたものを吹きそうな勢いで喋りだした。
汚いな・・・ 全て飲み込んでから喋ろよ・・・

クラスの連中の視線が集まり、皆目が嫌な光り方をした。


朝比奈さんかぁ…
出来ればもらいたいものだな。

もちろん、朝比奈さんは去年で高校を卒業した。
卒業式の時のハルヒが大変だったな・・・

なんか

『今から職員室に行ってくる!!』
と言い出したので理由を聞いてみると

『みくるちゃんは絶対に卒業させない! SOS団のマスコットキャラよ!? いないと困るじゃない!』
で、俺が説得。

『バカキョン!! あんたが悲しくないの!?』

『そりゃ悲しいさ。 でもいつでも会えるだろ?』

『うぅっ・・・』

何故か潤みだしたので・・・ 俺が慰める。
いや・・・ 男なら普通だと思うが・・・

『涼宮さん・・・』
卒業証書片手の朝比奈さん。

あの姿は脳裏に刻み付けてある。 忘れてたまるか。

『ごめんね・・・ 今まできつい事やらせてきちゃって・・・』

『へ?』

『なっ・・・』

俺も朝比奈さんも不意をつかれた。
まだ一度もハルヒの謝罪を聞いたことがなくて、これが初めてだった。

『何よ・・・』

ハルヒの涙を必死に拭う姿は想像以上に女の子っぽかった。

そして次に俺は口走ってしまった。

『朝比奈さんがいなくても俺がいるだろ?』

『え・・・?』

本当は『俺も長門も古泉もいるだろ?』だったが、『俺』だけになってしまった。

『朝比奈さんの事がお前の心に刻み付けられたなら俺だって同じ事をしてやる』

俺はなんて言おうとしたのか、よくわからなかった。
とりあえず・・・  なんだ?

『キョン君? それって告白ですかぁ?』

『え? そうなのキョン?』

『それは・・・ ちょっと飛躍しすぎかな・・・』

しかも朝比奈さんがいる場でこれ・・・
普通に恥ずかしいかったな・・・

『好きなら好きって言っちゃいなさいよ!』

何故か俺を突付くハルヒだったが。

『まぁいいわ。 みくるちゃん、今までありがとう!』

そして、ハルヒに笑顔が戻った。



後々聞いた話になるのだが。
朝比奈さんは進学して有名な大学に入った。




後、数ヵ月後にハルヒは同じ大学に入る。


あの・・・? 俺に未来の情報を公開してもいいんですか?













まぁ、話を戻そう。


「キョンは今のところ収入ありか?」

「ん? 一応な」

実際すでに一つだけな。
いつかはわからないが、体育の授業の後に鞄の中を見てみると一つだけ入っていた。
まだ中身は開けてないのでわからないが・・・

「なんだよ・・・ お前も勝ち組じゃないか・・・」

「勝ち組って・・・」


よからぬ気配。 いやオーラを感じた。
俺の背後に浴びせられる破滅の光。







*



5限目前。

プスプスと俺に刺さる漆黒の刃。
刃というか槍。

「それ結構痛いんだぞ・・・」

「知らないわよ。 それよりあんたチョコ貰ったの?」

破滅の光の発生源はこいつか・・・?

「一応な」

「あんたみたいな男でも貰えるの?」

知らん。 それより失礼なやつだな・・・
俺は俺なりに努力しているつもりだ。
たまにならこんな報酬があってもいいだろう。

「大体みんなバカよね。 13日に渡したって意味ないわよ」

そりゃー休日だからしょうがないだろ。

「まったく・・・ これだから男は・・・」

ガタンと机を鳴らしてハルヒは席を立った。
もう少しで授業始まるが・・・

「トイレよトイレ」

軽快なステップを踏みながら教室を出ていった。
クラスの連中は前を凝視しているので気付かなかったようだがな・・・

黒板には
『男子へ。 今日チョコの個数が一番多い人に今度の休日に好きな人と一緒になれる事を許す』

と書いてあり、その下には名簿とシール。

一番多い奴が・・・  11つ!?
ぬおぉ・・・ すげぇな・・・





キーンコーンカーンコーン。




「さぁ、はじめるぞー」


ハンドボールバカ岡部(命名ハルヒ)の授業が始まった。


つまらん・・・
本当は頭に叩き込まなければいけないのだが・・・ つまらん事は入れたくないよな・・・

























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時は一気に過ぎて 2月14日。








「さぁ! 斑決めするわよ!」

俺の目の前に差し出された五本の爪楊枝。
今日一日をハッピーデーにしてくれる爪楊枝はー・・・    これだ!!

























































「何ボケーッとしてんのよ! さっさと歩きなさい!!」

袖を引っ張られて二歩程先をズンズンと歩く本日のパートナー。

班は、ハルヒと俺、長門と古泉。
まぁ・・・ 古泉とならなかっただけマシか・・・

本日はバレンタインデー。
街中はイチャつく馬鹿たちで溢れてやがる。

「なんか・・・ ここ居心地悪いから別の場所に行きましょ」

「同感だ」

そのまま10分程歩いて、始めてみる公園のベンチに俺は座らされた。

"座った"では無くて"座らされた"だからな。
誰に?  ハルヒに決まってるだろ・・・

「今日は2月14日!バレンタインよ」

わかってる。 男がこの日を忘れるはずがないからな。
結局昨日の収入は一個だけだったがな・・・ もちろん義理・・・

「キョンは、SOS団に尽くしてる?」

「何だ突然・・・」

尽くしているか、じゃなくて。 強制的に尽くされている、が正しいがな。

「だったら問二!」

妙なことを企んでそうな笑顔で俺の隣のベンチに座るハルヒ。

「私に一生を尽くす気ある?」

「あー、あー、あぁ? え?」

一生を尽くす気・・・?
何故そんなことを聞くんだ? なぜ? WHY?

「いいから答えなさいよ、ついでに配点は一問50点。 100点で商品をあげるわよ」

商品っていうとあれか? バレンタインだからチョコなのか?
貰わないよりは貰うほうが何倍も嬉しい。
それにハルヒの問いはよくわからない。

「ある、と思う」

「本当? 絶対に絶対に絶対に?」

絶対を三回も言う必要があるのか、わからないが・・・
それに・・・ 今更だが・・・ ハルヒの問二の意味がわかってきた・・・
要するに・・・

「信じるわよ? ずぅーっと一緒だからね?」

これから永遠にハルヒに尽くせ。
そしてずっとハルヒの傍にいろ、って事・・・?

「ハルヒさん・・・? 質問よろしいですか?」

「何?」

「ハルヒは俺でいいのか?」

すると当然とでも言いたそうな笑顔で頷いた後に俺の返事を待つかのように空を見上げている。

「ぁー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 色々整理中・・・」

「問三! はい、か、いいえ、かの二択だから。 私を彼女にする気はありますか?」

話を進めるのが早い・・・
待ってくれ、頭の中は現在大変な事になっている・・・

「どうすんのよ? 150点で更なるプレゼントあげるわ」

脳内整理中。

というか・・・

俺はハルヒがどうやら。




恋愛対象になってしまったようだ。


何故かは、わからない・・・
ただ、
俺の好きな服装をしていたから。

俺の好きな仕草をしていたから。

俺の大好きな人物だったから。



「答えは『はい』だな」

今までにない輝いた笑顔を俺に見せてくれる。
それも好きなんだよ。

「なら付き合ってね。 それと・・・」

鞄をガサゴソとあさりだした。

「これ!」

両手に箱を添えて俺の前に出してきた。

赤い包装紙と半透明の黄色いリボンで綺麗にラッピングしてある。
外見だけであからさまに本命って感じがする。

「今までの中で最高傑作が出来たんだから味わいなさいよ?」

「そうさせてもらうよ」

その箱を受け取りまじまじと回しながら見てみる。
う〜む、やはり義理と比べるとかなり違うな。

「ほら、休憩したことだし行くわよ」

俺の片手を力強く握られ引っ張られた。
立春を過ぎた二月とは思えないほどに冷たい風を浴びているのだが、片手だけは温かかった。
人の体温をここまで感じたのは初めてだな。














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その後の話だが。

あまり俺に対するハルヒの態度は変わらなかった。
あんまし付き合った感覚がなく、平和に日常をすごしていた。

この後に俺の行く大学が強制的に決められていたのは、ずっと未来に聞かされた事だけどな。