今日はよく晴れた日だ。出かけるには格好の天気だし、俺の隣には黙っていれば超をつけてもいいほどの美少女…まぁ、黙っていればって枕詞がついちまうんだがな。件の美少女、涼宮ハルヒがいる。そんでもって他のSOS団の奴らは今日の市内探索には参加せず、俺ら2人で探索をしてるわけだが…珍しく、ハルヒが集合時間に遅れてやってきた。いつもは頼まれなくても誰よりも早く集合場所にやってきて、得意のアヒル口で最後にやってくる俺に文句をたれるんだがね。

「キョン…私の傍から離れないで」

 なんて、普段の俺からすれば信じられない言葉を言う。未来人や宇宙人、果ては超能力者まで見てきた俺だ。そこそこのことじゃ驚くことはないと思ったが…。

「今日ね…キョンが、あたしの目の前で―――――」

 誰だってそうだろう?自分が死ぬ夢を見られたら驚くさ。いや、普通なら笑ってすごせるぞ?しかし、その夢を見たのは他でもないハルヒだ。長門や古泉の言葉を借りれば、“世界を改変できうる力”を持ったハルヒが見た夢なのだ。現に、俺は一度工事現場から落ちてきた鉄パイプで危うくあの世へ行きかけたところだ。まぁ、ハルヒの咄嗟の行動で助かったわけだが…。

「あたし嫌よ…目の前であんたが死ぬなんて」

「その言葉、この状況でなければもっと嬉しい言葉なんだがな」

 見上げた空には燦々と太陽の日が照っている。はぁ…本当に俺って奴は。

「大体な…こんな古典的なこと最近のコントですらやらんぞ」

 俺はたまたま通りかかった住宅街の道端にある小石につまずいて、たたらを踏んだ所に運悪く口の空いたマンホールがあって、ケツからはまっているという…なんとも情けない格好だった。なんだかんだ言ってるハルヒも目じりに涙をためて、笑いを堪えてるみたいだ。…情けないったらありゃしない。

「はぁ…あんたって本当にあたしがいないとダメね」

 ハルヒの差し出してくれた手をつかみ、何とかマンホールから這い出す。いや本当に自力じゃ難しかったんだ。けして俺が平均的男子より力がないとか、そういう事じゃない。わかりにくい奴はポリバケツにケツから落ちた所を想像してもらえばいい。悪いが俺は一人で抜け出せる自信はない。

「しかし…何もかもお前の夢で見たとおりか。横断歩道を渡れば居眠り運転の車にひかれそうになるわ、マンションの近くを通れば上から植木鉢が落ちてきたり…お前が夢を見てなきゃ何度死んでるかわからんな」

 午前中に死にそうな目にあう事3件…これじゃ午後に入ってからも頭痛の種は切れそうにないな。

「本当に…自分でも怖いぐらいだわ。まぁ、最後のマンホールは夢に出てこなかったけどね」

「…いうな。ありゃ俺にだってイレギュラーだ」

 まったく…まだ笑ってやがる。そろそろ忘れてくれ…ありゃトラウマになる。

「それより…お腹減ったからお昼にしましょ!」

「そうだな。…っと、昼はお前の奢りだったな」

 SOS団始まって以来初めて俺以外の奴が飯をおごることになるとはな。

「まさか忘れたとはいわせんぞ?」

 ニヤニヤとにやけてるだろう俺の顔を見ながら、ハルヒは一瞬言葉に詰まったようだった。 

「う、うるさいわね!ちゃんと覚えてるわよ!ほら、あそこのファミレスにでも入るわよ!」

 それだけ言うと、ハルヒは早足でファミレスへと向かった。

「全く…からかいがいのない奴だ」

 やれやれ…ため息一つ、俺はハルヒの後を追ってファミレスへ入った。ハルヒは既に席へ案内されてるようだ。何でわかったかって?そりゃ奥のほうのボックス席から身を乗り出し、俺に手を振ってるあいつがいたからな。

「さぁ!好きなもん選びなさい!遠慮は要らないからね!!」

 おいおい…席に座って速攻メニューを俺の目の前に突き出すのはいいが、言葉とお前の表情があってないぞ。“あんまり高いもの頼んだら死刑だからね!”とお前の目が物語ってるが…。

「んじゃ…俺はこれにするわ」

 しばしメニューに目を通して、高すぎず安すぎずなランチを選んだ。

「なんだ、もうちょっと高いの頼んでいいのよ?」

 …大事だな、本音と建前。お前の目がそうさせたんだぞ――――――。なんて言えば何やら末代まで呪われそうなので止めておこう。

「いや、俺はこれでいい…」

「そ、じゃあ注文するわね。すいませーん!」

 ハルヒは店員を呼んで注文をし始める。と、丁度その頃合を見計らったかのように俺の携帯が揺れ始めた。あぁ〜学校から帰ってきてマナーモード解除するの忘れてたんだったな。誰からか…そう思った俺がズボンのポケットから携帯を取り出し、サブウィンドウを見ると見慣れない名前だった。いや、そいつ自体は見慣れちゃいるんだが、電話なんてまずかけそうにない奴の名前だといったほうがいいだろう。

【着信中 長門有希】

 まさか…な。俺は嫌な予感がしたさ。いや、むしろようやく掛かってきたか…なんて感じもした。

「ハルヒ、悪いがちょっと席離れるわ」

「え?何処行くのよ」

 ハルヒの顔がすこし不機嫌そうに歪んだ。

「…便所だ便所。まさか女の子の前で言うわけにもいかんだろう?」

「あっそ。とっとといってらっしゃい!」

「へいへい」

 …我ながら下手ないいわけだったか?まぁ、それはいいだろう。俺はトイレに入ると、急いで長門からの電話を取った。

「わりぃ、長門。待たせた」

『…大丈夫。それより、約10時間前に世界が改変された痕跡が発見された』

 まさか…。それってもしかするともしかしちまうか?

『涼宮ハルヒの能力によるものという可能性が非常に高い』

「マジかよ…って、ちょっと待て。何でお前らが改変されたっていう事に気づけた?ハルヒの能力であればそれこそ気づかれることなくできるんじゃないのか?」

『分からない。情報思念体もその事に関しては答えを保留している』

 くそっ…長門に分からないようじゃ、俺が幾ら頭ひねっても答えなんて出て気やしないだろうな。

「なぁ、今日お前や古泉や朝比奈さんがこなかったっていうのは―――――」

『それぞれがこの事態の解決に奔走している。が、今のところどれも有効な手段は取れていない』

 まさか…まさかなぁ?俺の脳裏に今日待ち合わせであったときのハルヒの姿が浮かぶ。不安そうに、何度も俺を確かめるようにしていたあいつの様子を。あの、ハルヒの“夢”…とりあえず長門に話すか。全てはそれからだ。

「長門…今日、ハルヒが朝あった時に俺が死ぬ夢を見たって言ってるんだ。それもハルヒの目の前で何度も…」

『…詳しく話して』

「それぞれ場面は違うんだが、どれも2人で市内探索をしている途中だ」

『……』

 いや、長門…沈黙は止めてくれ。なんだか死刑宣告を喰らう無実の被告人の心境なんだが…。

『恐らく、そのどれも現実に起こっていること』

 どうやら俺の考えは正解だったって事か…でも、当たってて欲しくなかったぜ。それじゃぁ、俺は何度も死んでるわけになるんだからな。

「ってことは、俺は実際何度も死んでるってことだよな…やっぱり」

『恐らく貴方が死んでしまった事により涼宮ハルヒ本人の精神に多大な負荷が生じ、その時点で涼宮ハルヒが貴方のいる世界を望み、世界が改変され巻き戻りがされている。そして、同じ事にならないよう、涼宮ハルヒ本人が無意識下の内に“夢”という媒体を使い記憶の揺り起こしを行っているのだと思われる』

「つまりこの時間はループしてるってことでいいんだよな?」

『そう。恐らく既に何度もこの世界の改変が行われている可能性が高い。そして、本来なら完璧であるはずの彼女の能力が何度も同じ世界を作り出すことによって徐々に綻び始めているか、彼女一人では貴方を助けられないと判断し、無意識の内に助けを求めている可能性が高い』

「つまりは、お前らが察知した世界が改変された痕跡ってのはどちらにしろハルヒからのSOS…って訳か」

『そうとってもらっても構わないと思う』

 っていうか、何で一日の中で俺はそんなに死んでるんだ?いくら俺が間抜けていてもそうそうある事じゃないだろうに。

『可能性としてあげられるのは情報思念体の別グループから涼宮ハルヒに対するアプローチ。貴方を殺すことによって彼女がどう出るかを推し量っている。後は未来から過去を自分達の都合のいいように変えようとしている集団からの一時的な介入が挙げられる』

 んじゃ何か?俺はハルヒの出方を見るために、試しに殺されてんのか?

『表現が非常に的確…まさにその通り』

 ふざけるな!あいつら…俺のことなんだと思ってんだ!俺はハルヒのリトマス試験紙じゃないんだぞ!

『大丈夫…これで大方の予想はついた。次のアプローチには間に合わないかもしれない。けど、その次はない。私が止める』

「…わりいな。何度も負担かけさせちまって」

『構わない。私は貴方に頼られることを不快に思っていない』

「ありがとうな、長門」

『…気にしないで』

「あ、後一つ!」

『…』

「何で今日なんだ?俺を殺す機会なんて幾らでもあっただろ?なのに、何で“今日”なんだ?」

『…それは私の口から多くを伝えることはできない』

 長門の感情の見えない喋りが一瞬だけ揺らぐ。本当に少しだけだったが、申し訳なさそうに俺には聞こえた。

「そうか…いや、すまなかったな。それじゃ、頼むぜ長門」

『分かった。…貴方はこれから重大な選択を迫られる。それをどう答えるかは貴方しだい。今の私にいえるのはここまで。それじゃ』

 それだけいうと、長門からの電話は切れた。重大な選択って…長門、訳がわからんぞ?とりあえず俺はこれ以上ここにいると押しかけてきそうな奴を待たせてるので、早々にトイレからでると、席へ戻った。

「わりぃ、待たせた」

「あんたずいぶん長かったわね。もう料理でそろっちゃったわよ!?」

 確かに、注文した物は全部出揃ってるようだ。机の端に申し訳なさそうに伝票が置いてある。

「…待っててくれたのか?」

 俺の一言に驚いたのか、見事に耳まで赤くしたハルヒは得意のアヒル口を作ってそっぽを向く。 

「べ、別に待ってたわけじゃないわよ!ただ、あんたが一人で食べてるのを眺めてるのが嫌だっただけ!」

 ん〜…喜んでいいのか悪いやら。まぁ、今は額面どおり受け取っといてやるか。

「はいはい、ありがとよ。それじゃ、食べようぜ」

「む…まぁ、いいわ。せっかくの料理が冷めるのもなんだしね。よく味わって食べなさい?これがあたしの奢る最初で最後のご飯かもよ?」

 ハルヒはニヤケ面で俺に言ってくる。

「おいおい…」

 まぁ、確かに今までの結果を鑑みるに俺のほうが確率が高いだろう。それから俺らは音もなく昼飯を食べた。なんというか…俺は何を話したらいいか分からん。ハルヒと2人きりというのは過去何度かあったかもしれんが…こう面と向かってお互いを見ながらってのはそうない気がする。んで、柄にもなく緊張したというか…。わりぃ、やっぱ俺も男の子なんだよ。

「さ、腹ごなしもすんだし!探索の続きに行きましょっ!」

 昼飯を食い終わり、外で待っていた俺に、ハルヒは微笑んで言った。

「おぅ…了解、団長。で、指し当たってどっちに行くよ?」

 ファミレスは丁度俺らが来た道の分かれ道の真ん中に建っていた。右も左も似たような道だが、ハルヒの好きにさせよう。

「ん〜…それじゃ、右ね!右に行きましょ!」

 午前中の不安そうな表情はなりを潜め、またいつも通りのハルヒだ。

「分かった。右な」

 道路の右側へ渡り、ハルヒを歩道の奥…つまり、俺が車道に近いほうを並んで歩いていた。

「はぁ〜…それにしても、本当にいい天気ねぇ」

「あぁ…昼寝するにはもってこいだ」

「あんたそれ不健全すぎよ?もうちょっとましな答えは出てこないの?」

「たとえばどんなだ?」

 純粋にというか…少し興味本位から俺はハルヒに切り返してみた。

「例えば、そうね…き、気になる女の子とどこかに遊びにいくとか」

「おいおい…そんなのがいたら俺はこの場にいないと思うが?」

「え?」

 ハルヒの歩みが一瞬止まる。…ん?俺何かおかしなこといったかな?

「ハルヒ…どうした?」

「…え?あ、な…なんでもないのよ!?そ、そうよねぇ!キョンに限ってそんな事なかったわよねぇ〜!」

 おいおい…いうに事欠いて俺に限って、なんて失礼な奴だな。だが、その通りなのも事実なんだがな。…はぁ。

「ねぇ、それより…ここ――――――」

 ハルヒが何か言いかけた時、俺の後方から大きなブレーキ音が間近で鳴り響いた。

「くそっ!!」

 俺は慌ててハルヒを突き飛ばす。が…それが精一杯だった。次の瞬間、俺の視界は回転しながら空高く飛ぶ。消えかけた意識の中、座り込むハルヒの姿が見え、あいつの無事が確認できた俺は、そこで意識を手放した。








































「ん…」

 何だここは?白い壁に白い天井…そうか、俺死んじまったのか。

「キョン…」

 呼ばれて俺はその方向に首だけ動かすと、俺の手を握ったままうつ伏せに倒れているハルヒがいた。

「ハルヒ…」

 どうやら俺はまだ死んじゃいなかったようだ。こいつの手から伝わってくる温もりがそれを感じさせてくれる。それにしてもここは…。

「病院ですよ」

「どわぁっ!?」

 …我ながら間抜けな声出したな。ったく、急に話しかけるんじゃない!いるならいるとはっきり言え。

「そういわれましても…僕としましてもいつ声をかけようかと迷っていたので」

 ニヤケ顔で俺を見てくる超能力者…古泉だ。

「それにしても…本当に貴方という人は―――――」

 何だよ…なんか文句でもあるのか?いつまでも壁に寄りかかってるんじゃねぇ。ちょっとは座ったらどうだ?

「いえいえ。本当に涼宮さんが大切なんですね…と」

 古泉は俺のベッドの傍まで来ると、パイプ椅子を出して座った。

「一応、貴方にも説明が必要かと思いましてね。それで僕がここにいるんですよ」

 ベッドから軽く半身を起こし、古泉のほうに体を向けた俺は一体どんな表情をしていたのか…古泉が肩をすくめ、溜息をつく。

「結果から申しますと、貴方の命を狙っていたのは未来から過去を変えようと来た者たち、情報思念体の別グループ…その双方でした」

「って、ちょっと待て。ここにはハルヒが…」

 そう、いくら今寝ているとはいえいつ起きてくるかわからん。ハルヒを前にしてこの会話はやばいんじゃ…。

「大丈夫ですよ。長門さんに頼んで眠らせてもらってます。そうしなければ…貴方が目を覚ますまで涼宮さんはけして眠ろうとしませんでしたからね」

 …ハルヒ、お前って奴は。変なところで義理堅いよな、本当に―――――。

「果たして、本当にそれだけですかね?」

 何だよ…違うってのか?

「いえ…貴方がそれでいいならそういう事にしておきましょう?それでは、続きをよろしいですか?」

 なんだか癪に障るが…まぁ、いい。続けてくれ。

「あの事故の後、貴方は涼宮さんが呼んだ救急車に乗ってここに運ばれました。まぁ、“機関”の息が掛かったところです。貴方の治療が行われている間、僕らは原因を突き止め、彼らを追い返しました」

「おいおい…えらくあっさりだな」

「えぇ…恐らく彼らも気づいたのでしょう。この世界…いえ、この時間が何度も繰り返されているという事に」

「…俺を殺せばその時間がループするだけなのが分かったから、帰ったってのか」

「正にその通りです」

 ふざけんな!散々人を危ない目に合わせといて結果が分かれば、はいそれまでよってか!?

「えてして観測者や科学者なんていうのはそういうものです…過程ではなく、結果がなにより全てと考えますからね」

 …なんだか疲れたな。ってか、俺の怪我は大丈夫なのか?車に撥ねられたにしちゃなんともなさ過ぎる気がするが…。

「えぇ、怪我に関しては…そうですね。長門さんが何とかしてくれた…というのが正しいですね」

「何?」

「正直、ここに運び込まれたときの貴方は既にどうにもならない状態でした。頚椎骨折に頭蓋骨陥没、脊椎損傷、大腿骨骨折に肋骨が何本も骨折していたので、生きてるほうが不思議な状態だったと―――――」

 マジかよ!?そんなんでよく生きてたな、俺…。正直俺はなんら特技はない一般人だと思っていたが…。

「えぇ、貴方のそのゴキブリ並みの生命力のおかげで世界は助かったといえましょう」

 うるせぇっ!一言余計だ!!

「まぁまぁ…褒めてるんですからそういきり立たないでください」

 そんな風には聞こえなかったがな…。

「で、もろもろを片付けた長門さんが集中治療室にいる貴方を治した…というわけです。よかったですね。あのままじゃ完治したとしても何らかの後遺症があったでしょうから」

 うむ…健康なのはいいことだ。しかし…長門には迷惑かけっぱなしだな。後で御礼の意味も含めて何か奢ろう。

「本当にギリギリだったそうですよ。長門さんも流石に命ない者に新たな命を授けるのは無理だそうですから…。あのままでしたら、まぁ間違いなくまた時間は戻っていたでしょう。医師の見立てではもって半日…という事でしたから。それでも命の神秘というものに驚いていたぐらいですがね」

 はいはい…俺の生命力の強さは分かったよ。で、どうなんだ?また奴らは仕掛けてきそうなのか?

「いえ、恐らくそれはしばらくないでしょう。現段階で貴方が亡くなった場合どうなるのかは既に結果が出ているわけですので」

 そうかそうか…それじゃ俺はまた平穏な毎日が過ごせるわけだな。よかったよかった…って古泉、何またニヤケてやがんだ。

「いえ…これから貴方の日常が平穏になるかは分かりませんが、少なくとも命の危険はしばらくありませんよ」

 それだけ言うと、古泉は席を立った。

「それじゃ、僕はこれで。そうそう…僕がこの部屋を出たと同時に涼宮さんの時間も動き出します。貴方の無事な姿を見せてあげてください。相当心配なさってましたから」

 分かってるよ!ったく…いつも一言多いんだお前は!

「これはこれは…では、失礼しました。健闘を祈ります」

 そう言って古泉は部屋を出た。健闘…?どういうことだ。さっぱり分からん。

「…ん」

 お姫様のお目覚めか…。

「よぉ、ハルヒ」

「あ…」

 眠たい目を擦りながら、半身を起こした俺の姿を確認すると、ハルヒの奴固まりやがった。

「お〜い…ハルヒ?ハルヒ〜?」

 目の前で手を何度か振ってやる。すると、金縛りが解けたのか…ハルヒの顔が歪む。

「ってお、おい」

 そのまま俺に抱きついてきやがった。握られた手は力をこめられて握られる。おいおい…本当に女の握力か?結構痛いんだが…。

「よかった…」

 くぐもって聞こえるハルヒの声が、少し震えているのが分かった。空いてる腕で、ハルヒを抱きしめた。…まぁ、普通の反応だろ?誰だって弱ってる女の子見りゃ、抱きしめてやりたくもなるだろ?な!な!?

「あんたが…あんたが死ぬんじゃないかって―――――」

「何を言う。俺はこの通りピンピンしてるぞ?」

 何せ俺の生命力は今回のことで折り紙つきだ。ちょっとやそっとの事じゃ死なんだろう。

「だって…だってあたしまだあんたに―――――――!」

 …はい?すいませんハルヒさん。聞こえなかったのでできればもう一度言っていただけませんかね?

「…女の子にこんなこと何度も言わせるなんて最低ね」

 俺の胸から離れて、目元を軽く擦るハルヒ…その顔は茹でた蛸みたいだった。

「茹蛸とは失礼ね…。あんたもそう変わんないわよ!」

 …確かに。体中の血液が顔に集中しているようだ。頭もくらくらするしなんだか呼吸もまともにできん。

「で!…ど、どうなのよ!?」

 もしかして長門の言う重大な選択って…。古泉の野郎、知ってて言って来やがったな!健闘を祈るだと!?ふざけんじゃねぇ。答えなんて…決まってる。じゃなきゃ、あの閉鎖空間で幾ら2人きりだからとはいえ…あんな事しない。それが俺の矜持って奴だ。

「っとわ!」

 まるで女のあげる声とは思えない奇声をハルヒがあげる。まぁ、俺がハルヒを無理やり抱き寄せたからかもしれんがな。

「ちょ、ちょっと!何する―――――」

 それ以上ハルヒが喋ることはなかった。…なぜかって?そりゃ喋れるところを俺が塞いじまったからだ。言ってて恥ずかしくないかって?…うるせぇ!

「俺は馬鹿だからな。うまく言葉にできないから…これが俺の答えだ、ハルヒ」

 ハルヒの体を少し離すと、俺は告げた。 

「馬鹿…少しはムードってもんを考えなさいよ」

 俯いたまま、答えるハルヒ。…なんか知らんがむちゃくちゃ可愛いな。

「まぁ…俺は馬鹿だからな」

 そういうと、またハルヒを俺のほうに抱き寄せた。

「これからも…よろしくな」

「うん…よろしく、キョン」

 秋晴れの日…俺たちは恋人になった。























 ここで後日談でもしよう。あの後何処で見てたのか知らんが、俺の顔を見ると古泉はやたらニヤニヤするし、朝比奈さんは顔を真っ赤にしてそっぽを向くし、果ては長門に…

「…大胆」

 とまですき放題の言われよう。お前ら…出歯亀はよくないんだぞ!?全員馬にけられて死んじまえ!!











「キョ〜ン!」

「何だ?」

「また面白いこと考え付いたわ!」

「お前…またどうせろくでもない事なんだろ?」

「ろくでもないとは失礼ね!今度はこれよ!」

「…却下!激しく却下だ!!」

「いいじゃない!ねぇ、みくるちゃん?」

「え?…はい、別にいいと思いますけど――――」

「おやおや…なんとも面白そうですねぇ」

「古泉…お前俺に何か恨みでもあるのか?」

「…面白そう」

「ね!ね!?有希もそう思うでしょ?」

「な、長門…お前までかぁっ!?」

「それじゃ決定〜!次に我らがSOS団が行う行事はこれよ!!」

 …いつもと変わらん日常。もしや、これこそがnightmare…って奴なのかもしれない。まぁ、こんな悪夢ならいつでもOKだ。散々遊び倒してやるからな。

「こらぁっ!キョン!!何ぼさっとしてんのよ!!早く行くわよ!!」

 どうやらハルヒを除く他の団員は一足先に部室を出たようだ。ハルヒが得意の仁王立ちで俺を呼んでいる。

「へいへい…おい、ハルヒあれ」

「え?」

 と、ハルヒを別のものに気をそらせ、その隙に俺は唇を奪う。

「な…っ!?」

「ご馳走様…っと。ほらハルヒ、早く行かんと皆に置いてかれるぞ」

 俺はそれだけ言うと、呆けているハルヒをおいて全力で走った。まぁ、逃げた…というほうが正しいか。

「こ、この馬鹿キョン!ちょっと待ちなさい…って、待ちなさいよ〜!!」

 やなこった。さぁ〜て…今日もこの変わらぬ日常って奴をめいいっぱい楽しむか。それじゃぁな〜。






























あとがき
はい、頑無です。僭越ながら書かせていただきました。フェンさん作「Truth nightmare」の続き…ですね。いや、ツンデレって難しいですね。何やらキョンがまるで別人のように見えるってのは内緒な話で…。
今回朝比奈さんは名前だけで全く顔を見せず…いや、嫌いというわけじゃないんですよ。
ただ、絡ませずらかっただけで。それだけ自分に力がないってだけの話ですね。
この作品、あえて自分ではタイトルはつけません(フェンさんの作った作品の続き物な訳ですしね)。この作品にタイトルをつけられるのは「Truth nightmare」を作ったフェンさんだけだと自分は思うので。
では、ここらで失礼いたします。最後まで読んでいただきありがとうございました。