「い、嫌よ!! あんたのいない世界なんて信じられない!!」

「ふざけるな! 俺はもう行かなくちゃならないんだよ!!」

「何でよ! なんで行っちゃうのよ!」

「俺が決めた事だ、お前にうだうだ言われる筋合は無い。今なら言ってや俺はお前が大っ嫌いだ」

「待ってよ! キョン!!嫌いでも何でもいいから…待ってよ!!」


ハルヒを後にしてその場を去った。
涼しい風が頬に当たる。

俺はもう行かなくちゃならないんだ…
もうこの世界には… 戻れないんだ…

本当は俺だってハルヒとずっと一緒にいたいさ。
でもこうでも言わないとお前は何するかわからないからな。

大好きだ。 ハルヒ。










































「ハイ、カットォーー!!」

「ふぅ… やっと終わったか…」

「OKOK! 名演技だったわよキョン!!」

「キョン君… えっぐぅ…」

「この作品ならいけそうですね」

「人間の悲しみという感情を表すにはこの作品は優れている」

朝比奈さんが泣き出してしまった。
そして腹が減った狼のように朝比奈さんに飛び付くハルヒ。

「大丈夫よ、みくるちゃん。 キョンは死んでないから!」

作品上俺は明らかに死んでいる。
確か大型トラックに引かれて即死だったんだよな。 俺。

「俳優などになってみてはどうでしょうか?」

知らん。 第一に俺にはルックスが無いからあまり向いていない。
古泉。 お前の方が適役だ。

「そんな事はない。 私も推薦する」

長門が言うなら確かなのか…?
しかし俺自信は俳優なんかになりたいとは思っていないからな。

「そう」

「これなら賞金もいただけそうね!!」

「ぅぅっ… えっぐぅ…」

泣いている朝比奈さんを抱き締めてハルヒが高らかに叫んだ。

「とりあえず皆で観てみましょう!」

長門が撮ったビデオカメラのプラグを映画愛好会から取り上げたシアター用のセットのよくわからんやつに挿した。
部屋の照明が落ちて我が団自作の映画が流れる。

『SOS団プレゼンツ!』

「これいらなくないか…?」

「次喋ったら椅子の上に縛り付けるわよ」

別にSOS団の名を出さなくても…
まぁハルヒのことだ。 世にSOS団の事を広めるためとか言うだろう。
多少キレ気味なハルヒの声が怖かったので黙って映画を鑑賞しよう。





『キョーン、早く行くわよ』

『別に急がなくてもいいだろ…』

『早くしなきゃ他の人に取られるわよ!』




そういえば色々説明してなかったな。

とりあえず映画の設定からだな。
主演、俺。
ヒロイン、ハルヒ。
二人は恋人同士だったが突然俺は事故にあって死んでしまった。
次の日、俺はベットで寝ていた。
事故は夢だと思ったのでいつも通りの日常を過ごしていた。

しかし、日に日におかしくなる体。

ハルヒは気付かなかったがラストにそれを教える。
結果的には感動作だ。




それより何故に俺が主演なのか不明だ。
絶対に古泉の方がいいと思うが・・・








『じゃぁな、今まで楽しかった』

『また… 会えるよね…?』

『当たり前だ。 いつまでも待ってる』

『絶対に私も行くからね…』

『あぁ、また一緒に遊びに行こうな』

『馬鹿ね… 向こうには何か県庁所在地でもあんの?』

『あるさ。 無くても俺が作ってやる』

『意味不明よバカ…』

朝比奈さんが既に声を漏らしている。
俺もちょいやばかったりする。

それよりハルヒが凄すぎる。
普通に映画の中ではボロボロ泣いてやがる。
ていうかこんな姿は可愛いな。
ハルヒが一番SOS団の中では演技力があるよな。
知らないうちに女優になってたりしても驚けないな。



『そろそろ行くか』

『…』

『ハルヒ、最後に…』

『んっ…』

俺の背中をバックに撮っているからキスしてるように見えても実際していない。

『ねぅ… お願い… 行かないで…』

『はぁー… ハルヒ…』

『ダメ… 絶対にダメ! 行かないでよ!』

『もう決められてるんだ… 俺が死ぬ事は』

『いやよ!! もっとあんたと一緒にいたいのよ!! もっと楽しいことしたいのよ!!
もっと思い出が欲しいのよ!! もっと… もっともっと! だから行かないでよ!』

『ハルヒ』

なんていうか。
恥ずかしい一面だ。

俺がハルヒを抱き締めている…
言っておくがハルヒに強制されたんだからな?

『ぅぅっ… きょぉん…』

『見えなくたっていつでもお前の傍にいるからな… 喋れなくても話は聞いてやる…』

『いやだよぉ… きょぉん…』

『ありがとう、俺はお前と一緒にいられる時間が楽しかった。 最高に…』

『うぅっ…』

『また、会える。 その時は、また手を繋げるようになってるさ。ハルヒなら一人でも大丈夫だ』

『バカ…』

『本当にありがとな。 愛してる』

『私も…。 絶対に行くからね。 まってなさいよ…』

『あぁ。 いつまでも待ってる』

『ありがと…』

『またな』






















そして、スタッフロールが流れて終了。
それと同時にハルヒ退場。
そして朝比奈さんはボロ泣き。
長門は相変わらず。
古泉は真剣な顔つきで。

俺?
見るな。 今の姿は見ないでくれ…
















「長門…」

「何」

「これどうだった?」

するといつも通りの口調で。

「理論的におかしな点が二か所存在する。 そして、台詞とあなたの表情が一致していない箇所が四つ」

相変わらず左脳的な考えだな。

「しかし」

「私も心の中では泣いている」



長門が?
いつもの読書好きの宇宙人ですよね?

でも、俺としても長門にそういう感情が芽生えるならば嬉しいことだ。

「キョン君… これからも色々迷惑かけると思いますが… よろしくおねがいします…」

何故かいきなり深々と頭を下げる朝比奈さん。
涙の流れた後がよくわかる。

ガチャッ。

ハルヒが戻ってきた。
何処にいっていたのかわからないが、8分ぐらい退室してたな。

「おかえりハルヒ」

するとハルヒは俺の顔を5秒ぐらい凝視してから。

バタン。


退室。








「あなたも相変わらずですね」

「何がだ…」

「乙女心がわかってない、と言うのでしょうか?」

お前が乙女心とか言うな気持ち悪い…







部室にあるホワイトボードに貼られた一枚のビラ。


『自作映画コンクール』

ハルヒは何処で拾ったのか知らないがこれに出場するらしい。

最優秀賞は、DVDレコーダー、パソコン、賞金50万円。
そしてその作品は都内で公開されるらしい。

毎年競争率が激しくて初心者は即アウトなのだがハルヒは参加した。



「お茶淹れますね」

上映中はハルヒ持参の炭酸飲料だったが、朝比奈さんのお茶の方が何倍も美味しいと思
う。
所詮機械で淹れられた飲み物だ。

「涼宮さん遅いですね…」

確かに。
二度目の退室から既に30分が経過している。

「長門、ハルヒは後どれくらいで来るんだ?」

「2秒後」


ガチャッ


もちろん2秒後に再びハルヒが来た。

「おかえりハルヒ」
本日二度目の台詞。

「あっ… うん…」

なんか元気が無いな。

「古泉君、ちょっといい?」

「なんでしょうか?」

次は二人して退室。

団長が副団長を呼び出す事は一般的には普通だが、ハルヒが古泉を呼び出すのは珍しい。











ガチャッ


「すいません、映画の中で一点気になるところがあるので撮り直していいですか?」

今回の監督は古泉。
脚本ハルヒ。
長門はカメラ役。
朝比奈さんは小役。

監督が撮り直したいならばまぁいいだろう。
で、どこのシーンだ?















そんなこんなで、俺はラストシーンの場所にいる。

俺はハルヒの正面に立ち、カメラは二人の横にいる。
古泉に指定された撮り直し場所は…

「そろそろ行くか」

「…」

ここの次の部分。

「ハルヒ、最後に…」

キスシーンなんだが…

「って、待て長門。 横からじゃダメだろ」

「ちょっとキョン! なんで途中で止めるのよ」

「いや、だって横からじゃ撮れんだろ…」

「撮れる」

「ほら、有希も大丈夫だって言ってるじゃない」

「いや、そういう意味では無くて」

「古泉君と相談した結果よ。 キスシーンは後ろからだと不自然なの!」

そこの椅子に座ってる野郎、後で覚えてろ…

「って事は… 俺とハルヒはキスしなきゃならんのか…?」

「まぁ… そうね」

いったいハルヒの頭の中にはどれほどの大宇宙が広がっているのだろか。
「まぁキスしなくてもいいから私の肩持って」

別にしないならばいいが…

「で、どうするんだ」

「んっとね」












「んんっ!?」

「こうするのよ」

俺は…

ハルヒと二度目の口付けをしてしまった…

待て、キスはしないと…

「それはあんたから。 私からは別よ」

その割には顔が真っ赤ですけど…

「う、うるさいわよ…」

「大丈夫、情報編集は得意」

いや、違うんだ長門。
これは心理的問題でな…

「有希、編集出来るの? お願いするわね」

「承知した」

もはや俺の言葉は長門にも届かないらしい。

「キョン、これでいい作品が出来たわ」

俺の心はズタズタですけどね…
そしてニヤけ顔の古泉よ、後でコロス。

その横の朝比奈さん… 顔大丈夫ですか…?
ハルヒ以上に真っ赤ですが…




「題名は… そうね… 『涼宮ハルヒのお別れ』ね!」

どこに自分の名を題名につける女優がいるのだろうか…
そういうのは監督が決めるものであってだな…

「いい題名ですね、賛成です」

役に立たん監督だな。

「でしょでしょ? やっぱり古泉君はわかるわねー」

イエスマンは煽てない方がいいぞ。

「それに比べてキョンは… 可哀想なぐらいセンスのカケラも無いわね…」

なぁハルヒ。
その言葉を自分に言い聞かせてみろ。
ハッキリ言おう。
お前にはネーミングセンスが無い。
服とかのセンスは良い。

ネーミングセンスだけは最悪だ。

「何か言った?」

「別に…」


しかしこの上下関係だけは崩れない。
同じ年の神様を俺は煽てれない。



ネーミングセンスの無い神様なんて何考えてるかわからないからな。
















エピローグ。



結果の話をしよう。

我が団の『涼宮ハルヒのお別れ』は最終選考で敗北。
優秀作品となった。
賞金は30万。
高校生にはかなり大きい。
今回の応募数は約150作品らしい。
すごい数だな…

『皆で旅行に行きましょう!』

と言ったハルヒ。
まぁ旅行ならいいさ。

都内に上映されないだけマシだ。





そして古泉によると。

『あの作品は最優秀賞に確実に入る程の物です。 しかし涼宮さんはそれを望まなかった』

理由をきいてみると。

『涼宮さんはあれで満足なんです。 思い出は心の中にだけあればいい、というような感じでしょうか』


やはり何を考えているかわからない神様だな。






「キョン! 遅いわよ、罰金!!」

こうして、SOS団二泊三日の旅が始まった。

ハルヒが随分楽しそうだな。
古泉の言うとおりかもしれん。


俺には人を見抜くセンスが無いのかもしれない。










後書き。

センスですねセンス。
なかなか書きやすかった今回の小説、いかがでしたか?
そのうち『涼宮ハルヒのお別れ』を書いてみようかなと思ってたりします。
今回は別に付き合ってる設定でもないので、オールキャラでいいですかね?
いや、でもキスしてるからハルヒxキョンですかね。

今回の製作時間は二時間強。
ネタは30秒以内で思い付き、全ての骨組みは3分程で頭の中で完成。
骨組みさえ作ればやはり書きやすい。

とりあえず、また後書き出来るように頑張ります。
それでは、次の作品で。