夏の出来事。





「ぁっついー」
「熱いって思うから暑くなるんだぜ?」
「だったらあんたがすれば?」
「無理だな…」


日常としては普通な会話。
それにしても暑い…
特にこの真夏の部室といったらムシムシしていて一種の拷問かしら?
職員たちも自分たちの事しか考えていないのか職員室にのみ冷房が付いている… 今度忍
び込んでバラそうかしら?

「お前はどこぞの忍者か?」

あれ? 喋った感じじゃなかったのに…
ただ頭の中で考えてるだけなのに…?

「さっきから何言ってんだよ… 丸聞こえだが?」

そんなハズは… うーん…

よし、試してみようかしら。
足が痒い、足が痒い、足が痒い。

「自分でかけ…」
「あんた…」

下敷きでパタパタ扇いでいるキョンの暑気な顔がムカついた…
そんな事はどうでもいいのよ!
「さっきからなんだよ…」
「読めるの…?」
「は?」
「わたしの頭の中が…」
「何馬鹿げた事を言ってんだよ? ついに熱さでショートしたか?」
「うるさいわね… 喋る暇があるならアイスでも買ってきなさいよ…」
「ん? いいアイディアじゃないか」
「コンビニまで走ってきなさい、わたしはグレープ味ならなんでもいいから」
「やっぱ…めんどくさい…」

血管が切れたような気がした。

「あんたが言い出したのに何それ!?」
あれ? わたしから言い出したような気もするけど…
「熱いだろ…? 外に出たくない…」
「小さい男ね… あんたそのままじゃ日差しに当たって干からびるわよ?」
「はっ、どうだか? そういうお前はどうなんだよ?」

なんかキョンの態度がでかい…
団長に向かってその口の聞き方は何?
太陽に感謝しなさいキョン。
もし熱くなかったらあんたをぶん殴ってたわ。

「かかってこいよ、ぶん殴るんだろ?」

また読まれた… なんでだろ…

「いい度胸ね、そのうち殺してあげるわよ」
「殺すとか… あんまし女性がそうゆう言葉を使うなよ…」

あー、もうムカムカするわね…
何よこの気温!

「もう静かにしてくれ…」
「キョン、自販機行ってきて… 炭酸買ってきて…」
「自分でいけ」
「命令よ? 聞けないの?」
「俺の意思だ」

なにこいつ…
本当にうざったいわ…

「どうしたよ? いつもの元気は?」
「もういいわよ…」

キョンなんか大っ嫌い…
少しは男として認めてあげてたのに…
少しだけ… 本当に少しだけ好意もあったのに…
最悪… やっぱり男なんて自分勝手すぎよ。
もういいわよ、キョンがそんな態度取るなら…

「ハル…ヒ…?」

もしかして… また読まれたの…?
それなら相当恥ずかしいんだけど…
でもこんな馬鹿の顔なんて見たくないわ。

クルッと団長専用席を回して窓辺まで移動した。

もう絶対口は聞かないから。

「おーい、ハルヒ?」

うるさいわね、黙りなさいよ。

「なんだ、何か不満か?」

今、不満な事を言わせたら原稿用紙2枚は軽く消費するわ。

「じゃぁ言ってみろよ」

やっぱり… おかしい…
わたしがおかしいのか、キョンがおかしいのか…

「二人ともじゃないか?」
「うるさい」
「そのー、すまんかった」

わたしの頬にピタッと冷たい物が当たった。
「ひゃぁぁぁ!?」
「うおっビックリした…」

わたしから出るはずのない声が出てしまった…
それより
「冷たいじゃない! 何してくれ… んの…よ…?」
「ほれ」

キョンはわたしに炭酸のジュースを差し出した。
「何これ?」
「炭酸だろ? 実はお前が来る前に冷蔵庫にいれておいたんだよ」

まさか…

「からかってたの…?」
「ん? まぁな」
「こんのぉバカキョン!!!!」

叫んでやった。
そして後退りするキョンを少しずつ部屋の隅に追い詰めてから。
「いい度胸ね、覚悟は出来てるのよね?」
「な、なぁ、あれは… ただの冗談だ…からな? そんな怒る必要ないだろ…?」

本当なら切り刻んでから塵になるまで燃やして乾燥機をかけてやりたいぐらいだわ。

けど…


ちょっとは良い奴じゃない。
見直したわ、今度からは少ーーーーしだけ優しく接してあげるわよ?

「首がっ… 締まるっ…」

いつのまにかキョンのネクタイを掴んで上にあげていた。

「窒息死があんたにはお似合いよ」

キョンの顔が赤くなっていった。
そろそろ限界かしら?

「ぶっはっ… ぜー はーぜー はー」

まったく… 最初っからある事を言わないからこうなるのよ?
「暴力女…」
「ふーん、もう怒ったわ」

そのままキョンの袖辺りを掴んで足をかけて転ばせた…

けど…


キョンはわたしの手を離さずそのまま二人同時に転倒…


すっっごく鈍い音が響いた。
「いってーなー…」
「いたたた… っ!?」

倒れたのがわるかったのかわたしはキョンの上に覆いかぶさるようにいた。
「な…、ちょっとキョン… 何のつもりよ… 何がしたいのよ…」

するとキョンは顔を真っ赤にした。 あながち可愛かった… ぇっあ、いや… 妄言よ!

「何って… お前えが先にやったんだろ…?」
「わたしを押し倒すなんて… 覚悟出来てるんでしょうね…?」

どちらかと言うと押し倒した側はわたしだけど…
そうよ! こうゆうのは男が悪いのよ!

「ハルヒ…」
「なによ…」
「間近で見て気付いたんだが… お前… 結構可愛いな…」
「ぇ…?」

正直にうれしかったけどそれ以上に驚いた。
まさかキョンからこんな発言が聞けるなんて…

「ばっ、バカじゃないの!? お世辞を言っても何も出ないからね!?」

キョンは「はぁー」 と溜息をついてから、
「お前も後少しだけ素直になったらモテルと思うぞ?」

何言ってんのこいつ…
モテたいなんて思った事なんて一度も無いわよ。
わたしがもし付き合うなら
宇宙人か未来人か超能力者かキョンよ。

「は?」

あれ… キョンなんて名詞は入れたつもりないんだけどな…

「今なんて…?」

もしかして… またキョンはわたしの頭の中を読んだの…?

「読んだというか… さっきから喋りまくってるのはハルヒだぞ?」

意味分からないわよ…
もしかして…

「宇宙人…?」

はぁ? と言いたげなキョンの顔が映った。
うん、バカな事考えてたわ、キョンが宇宙人なはずないわよ。

「当たり前だ、俺が宇宙人だったらこんな所にいない」
「それもそうね」

でも、キョンのこの能力は何?
実は、人間は元々からこの能力があるけど覚醒は出来なかったとかそうゆうの!?
キョンだけ特別…


何それ? 卑怯じゃない。
団長を差置いて自分だけ不思議な体験? ふざけんじゃないわよ!
それにキョンはただの雑用係りよ!? いつも苦労してるわたしにも対等な報酬ぐらいく
れるはずでしょ!?

「俺も結構苦労してるんだぜ? それと重いからそろそろどいてくれ…」

うるさいわよ雑用!
今、どうやったらあんたからその能力を引き剥がしてわたしの物に出来るか考え中なの
よ!

キョンは苦笑をしてから。
「無理だな」 と

ムカツクー!



そういえば本で見たことあるかも…
相手の能力を得るには相手と接触すればいい、などと。

まぁ結構出来そうな気もするけど…

それに夢の中の借りだってあるしね。

「まさかな…?」

さって! キョン、覚悟しなさい! その能力は貰うから!

わたしは強引にキョンの口を塞いだ、自分の口で。

ちょっとだけ恥ずかしいわね…
キス中は目は瞑るものでしょ? なんで全開なのよ… 恥ずかしさ倍増よ…



自分で何をしたか考えて無かった…
キョンと… キョンが… ファースト(?)の相手…?
しかもこんな強引に…
何やってんのよ… わたし…
昨日も… 一昨日も自分に言い聞かせたじゃない…









『キョンから避けよう』








キョンの側にいるだけで胸が痛くなるのよ…
それが嫌だった…
これはキョンにいつもやらしている雑用の罪悪感だと思った…

いやなのよ… 本当はあんたに苦労をかけたくないのよ…
だから少しずつキョンから離れようと思った…




でも… どうしても離れれない…

これだけ密着しているのに落ち着く… なんでよ…
わたし何やってんのよ… こんな状態… 逆にキョンに迷惑がかかっちゃう…

でも… こうしていたい…











寝てしまいそうなぐらいの時間、そうしていた。
わたしはゆっくりとキョンの口からわたしの口を離した。
目を瞑ったまま…

きっとキョンは怒ってる。
いつも自分勝手なわたしに突然こんな事されたら怒るに決まってる…
バカよ… わたしは… キョンに嫌われる…
それでいいかもね… どうせキョンから避けるつもりだったし…





いや…
嫌われるなんていや…

なんで今キョンにキスしたのかわかってるのは自分…
少しでもキョンに好かれたいから…!
最初っから普通に接したかった… 団長と団員じゃなくて…
男と女として…



嫌いにならないで…
お願い…キョン… 嫌いに…ならないで…
わたしを…
















「おい、ハルヒ」







聞きたくない…







「お前、なにやってくれ、、、」
「やめて!」





聞きたくないのよ!!
キョンに嫌われたくないの!

「ハル、、、」


バアアアアッッッンッッ!!

なりふり構わす部屋から出た。
全力で廊下を走り三段とばしで階段を降りた。


「ハルヒーーーー!!」

後ろからキョンの叫びが聞こえる。
ここで嫌いなんて言われたらもう立ち直れない…
だから聞きたくない…
このままキョンとの思い出を残したい… 壊したくない…!





いつのまにか体育館裏に着いてしまった。
キョンのバカ… 少しは察してよ…

わたしはあんた好きなのかもしれない…
かもしれないじゃない…
好き…



バカなのはわたし…
自分から相手に嫌われる行為をしたんだもん…




疲れた… そういえばここまで全力疾走だったもんね…

「よいしょ…」

体育館にもたれかかり膝を抱えて座った。

体育館裏という事もあって人がまったくいない。
一人でいるには丁度いい場所かもしれない。

「ぅぅぁ… ぁぁぁ…」

寂しい…

胸が苦しい…

キョンに会いたい…





まだ生々しく唇に残る感触…
何が理由でやったのかなんて覚えていない…
覚えているのはキョンの曇った声だけ…


何がしたくてこの高校に入ったのか。
なんの目的でSOS団を作ったのか。
なぜキョンにきつい事ばかりしか言えないのか…


頭が痛くなる…
真夏だけあって汗もひかない… まだ日陰だからいいけど…

喉が渇いた…
そういえば部室でも飲めなかったわよね…
水道管の水なんて飲む気はしない。 汚いし…
キョンがせっかくジュースを用意してくれたのにあんな事…

今思い返せば恥ずかしい… それ以上の後悔。

唯一、付き合ってもいい、付き合いたい、と思ったやつなんだもん…
今後一切あんなやつに会える気がしない。
嫌われたらもうわたしに彼氏が出来る気がしない。


「最悪…」

恋は一種の精神病。

違うわよ。

恋は人間の本質。
誰もがする事。

そんな機会をわたしは逃した。

「超能力…」


キョンがやったようにわたしにもキョンの頭の中が読みたい。
怒っているのか知りたい。

「はぁー」

溜息をついた。

わたしらしくない。
孤独には慣れてる。 でもキョンが変えた。
謝ろうかな…

こんな所で膝を抱えていても変わらない。

「スカートの中見えてるぞ」

うるさいわよ…
今どうしようか考えてるの…

「ピンクか…」

聞き覚えのある変態の声。
間違いなく部室で話していたやつの声。

「なんで… どうして来たの…」
「来たもなにも… 探したんだぞ?」
「へ?」

顔を上げてみるとそこには息を切らしたキョンが立っていた。

「ほら、外は暑いから戻るぞ」
「このままでいいわよ…」
「んだよ… はぁ、まったく… やれやれだ…」

何しに来たのかわからない…
嫌いな人を探す理由がわからない。

「いくぞ」

キョンはわたしの腕を掴んで強引に引っ張った。
けどわたしは足をストッパーにしてその場から動かないようにした。

「何やってんだよ!」
「行きたくない!」
「黙れ、この自分勝手女」

ほら、やっぱり…

「お前はいつもそうだ! 自分だけ辛い事を受けようとする。 俺から見たら最低だな」

力が抜けた。
完全に振られた。
生きていく気力も同時に消え失せた気がする…

足の力が抜けてその場に座り込んだ。

「おい、大丈夫か?」
「もういい…」
「何?」
「すべてがどうでもいいわよ…」

いっそうの事、この世から消えたい…
もう… いや…


パシッ…


頬をかなり軽くはたかれた。 キョンに…

「目、覚めたか?」
「…」

暴力…? もういいわよ… 好きなだけやればいいわよ…

「バカいえ、じゃぁ部室いくぞ」
「この場でやればいいじゃない… もう殺さ、、、」
「いい加減にしろ!」

両肩をガッと掴まれて背中が壁にぶつかった。

「っ…たぁ…」
「お前今なんて言おうとした…」

真剣なまなざしをみせるキョン。

「いっそ殺してよ…」
「だから自分勝手なんだよお前は」
「殺してよ!」
「お前のこの行動が俺は大っ嫌いだ! 殺す!? 死にたいのか!? だったら勝手にや
れ! 死ぬのに人を使うな!」


もう嫌… 全てが…
キョンに完全に嫌われた…

「ぶざけんなよ! 死ぬって意味わかってんのか!? お前がいなくなったら悲しむ人だっ
て沢山いるんだぞ!?」
「知らない…」

そんな人いない。
あんただってそっちの方が嬉しいんじゃないの?

「本気で言っているのか…?」
「当たり前よ…」

キョンはわたしの両肩から手を離した。

「見損なった。 俺はお前みたいに自分がやりたい事をやる性格が好きだった。 それを簡
単に死ぬなど言い出す野郎だったなんてな」

自分のやりたい事ばかりやっているわけでは無い。
もうキョンの視界にわたしは入ることがない…

「団長として最悪だよ」

キョンは振り返って部室棟に向かって歩いて行った。


待ってよ…

一人にしないでよ…

孤独は嫌なの…

あんたに側にいて欲しいのよ…!

喉が渇きすぎて声を出す気になれない…
待ってよ… キョン…

本当は死にたくない…
もっとあんたと一緒にいたい…!

「キョン!!!」

叫んだけど彼は振り向かずに部室棟への道を歩いていた。

「待ってよ!!!」

足が動かない… 走れるなら簡単に追いつける距離なのに…
どんどん遠ざかる…

「死にたくない!!!」

するとキョンの足がピタッと止まった。
「キョン… わたし…」
頭の中がぐるぐる回ってる… 視界も…
あれ…? 何これ…

目がロクに開かない…

ドサッ…

右肩にとてつもない激痛が走った。

「ルヒ……!!!!」

よくわからない… 何が起きてるのか…
眠いのかしら…
前が見えない… キョン… お願いだから…

一人にしないで…



























あれ…?
頬が冷たい… 気持ちいい感じに…
何か乗ってるのかしら…

何これ… 人の感触がする…

「起きたか?」


声の主を探そうと目を開けてみた。
眩しい… とても…

必死に逃げようとするわたしの頬に付いてる手。
逃がさないわよ、だれか知らないけど、わたしにこんな事するなんて高くつくから。

「ハルヒ…?」

この学校でわたしを『ハルヒ』と呼ぶやつは一人しかいない…
なんで… どうして…

「触らないでよ…」
「は?」

キョンはわたしを不思議そうに見つめる。

「わたしの事が嫌いなんでしょ? 無理しなくていいから帰れば?」
「そ、そうか…」

なんでそんな簡単に肯定するのよ…

「迷惑なようなら帰るが」
「…」

何その聞き方… 卑怯よ…
ねぇ、わたし? キョンが帰ったら寂しいわよね…
本当はいてほしいよね…?

「別に… 迷惑なんかじゃない… けど…」
「じゃぁここにいていいか?」
「好きにしなさい」

なんでわざわざわたしのいる所にいたがるのよ…

「ハルヒ」
「なによ」
キョンの優しい聞き方に反対して不機嫌そうな声が出た。

「いきなりあれは無いと思うぞ?」
キョンの片手が再びわたしの頬に戻ってきた。
冷たくて気持ちいい…

「なんで触るのよ…」
「いいだろ?」
「勝手にすれば」

本当はこのままの状況が永遠に続いて欲しかった。
この先のキョンの発言が怖い…
嫌われたのよね… 多分これが最後のキョンとの会話…

「綺麗な肌だな…」

何よそれ… 女なら当たり前よ…

「後でお金取るからね」

お金なんていいからずっと触ってて欲しかった…
だからわたしはキョンの手の上に自分の手を添えていた。

「実は俺な」
「何?」
「可愛い仕草が結構好きなんだ」

ポニーの次は可愛い仕草?
欲張りね…

「で、何?」
「今のハルヒの手の行動が結構好きだな」

どうせ手ですよ…
わたしは可愛くないんでしょ?
いいわよ、言わなくても…

「だからさっきいっただろ? お前、近くで見てみると意外と可愛いって」
「へ?」

ドキッとした…
何この感じ…

「ハルヒは俺から見れば可愛いからな」

顔を真っ赤にしてわたしの目を見ずに発言するキョン。

「嘘ね」

するとキョンは振り向いて。

「こんな恥ずかしい事は嘘でも言えん!」
「え、じゃぁ…?」
「本音… だろうな…」

バカね、こいつ。
わたしが可愛い?
かわ…い…い…?

「わ、わたしが…?」
「何を突然…」
「恥ずかしいじゃない… どうせ嘘なんだろうけど…」

するとキョンの手がわたしの唇に触れた。
「な、何…?」
「まぁ…なんだ…その… さっきハルヒが無理やりキスしたよな?」
「怒ってるわよね…?」

するとキョンのもう片方の手がわたしの顎に触りクッとキョンの方向に動かされた。

「バカだな… 怒るわけないだろ…」
「はぇ?」
「正直… 正直… うれしかったがな…」
「う、嘘つきなさい!」
「本当だっつーの! ならやってやろうか!?」
「あんたが…?」

何こいつ… いきなり積極的ね…
どうせなら何も言わないでやってほしかった…

それより… キョンは怒ってなかった…
すんごい安心した… よかったぁ…
それにわたしとのキスがうれしかった…? どうゆう事?
わたしは正直、キョンとずっと繋がっていたいからキスしたい…
女として告白されたい方なんだけど…
部室で二人っきりだから…いいわよね…

「キョン… 好き… だか…ら…」
「ん? なんか言ったか?」
「なんにも言ってないわよ、キスしたいならいいわよ、今回だけは見てみぬフリしてあげ
るから」
「目瞑ってくれ…」
「うん…」

目の前が真っ暗になった。



唇にさっきとは、まったく違う感触のキス…

「はぁ…」

離した瞬間に変な声で息が出た。

「なんだその声」

「し、しょうがな… っ!!! 何やってんの!?」

目を開けてみたら視界の九割がキョンで埋まっていた。
つまりわたしの上にキョンが覆いかぶさっている…

「さっきは俺とハルヒが反対だったろ?」
「そ、そうだけど… こんなにも…」近くにキョンがいる…
胸のドキドキが止まらない…

「なんか… やばいようだ…」
「え?」
「これ以上、このままいるとお前を… 襲いそうだ…」

その証拠にわたしの両手はキョンによって床に押さえ付けられている…
足もなぜかロクに動かない…
いくらキョンでも男の力があれば、わたしは何も出来ないまま始まっちゃう…

「っ…… すまん…」
「キョン…?」

キョンがゆっくりと立ち始めた。
何か心残りがあるような顔で…

「男の人ってみんなそんな感じなの?」
「何がだ」
「自分のしたい事は我慢するの?」
「俺は、な。 後もう喋らないでくれ」
「どうして…?」

どうしたんだろう…
キョンが顔を背けた。

「どうしたのよ…」
「これ以上お前を見てたらやばそうだからな…」
「何が?」
「いいから早く立て」
「ぁっ… うん…」

あれ… 立てない…
足が動かない…

「キョン… 足が…」
「足?」
「動かないのよ…」
「なんじゃそりゃ、ほら、肩貸してやるよ」
「あ、ありがとう」

腕をキョンの首越しに回しキョンの力で立った。

「重い…?」
「まったく、米袋より軽い」
「なら背負ってもらっても大丈夫?」

大丈夫なはずがない、最近ちょっとだけ体重増えちゃったし… ちょっとだけよ!?

「もう好きにしろ」
「迷惑そうだからやめとく」

するとキョンはわたしが背中に覆いかぶさるように動いた。

「乗れ」

甘えようかな?

「よいしょ」
わたしはキョンの背中によじ登った。

「もうこんな時間だし帰るか」
「え…」

この状態で!?
さすがに他の人に見られるし恥ずかしいわよ!

「時間が時間だし大丈夫だろう」

窓の外は真っ暗。
時計は7時をさしていた。

「う、うん… でも無理だけはしないでよ?」
「余裕だ」














「はぁー はぁー」

ついに息を荒げるキョン。
そろそろ限界のようね。

「降りるな」

降りようとした瞬間にキョンが言った。

「だって重いでしょ?」
「今日、俺はお前に手をふるってしまったからな… その分だ」
「なにそれ? まだ気にしてたの?」
「当たり前だ」

ちゃんとわたしの事も考えてくれてたんだ…
えぇっと、確かツンデレだっけ? こうゆうの?
男がツンデレも結構いいわね。

「それはお前の事だ」
「ねぇ、ずっと気になってたんだけど…」
「ん?」
「なんでわたしの頭の中が読めるの?」
「なんだそんな事か」

キョンは前でハハハと笑っている。
なによ、もったいぶらないでさっさと教えなさい。

「それはな」
「うん」
「俺がお前と繋がっていたいと願ったからじゃないか?」
「ふーん」
「なんだよ… 無関心か?」
「だったらなんでわたしにはその能力が無いのよ?」
「知るかよ、別にこれから少しずつ距離は縮まるんだからいいだろ?」
「そうね!」


ぎゅぅっ とキョンの体を抱き締めた。

「な、、どうしたんだよ?」
「べっつに!」




理由なんて決まってるじゃない。

キョンと繋がっていたいから!