涼宮ハルヒの幸福3-1 



学生時代とは比べ物にならないほどの威圧感を感じていた。
大学でも高校でも放課の間には必ず笑いがあった。
しかし現状は違う。
俺も社会の一員となり国のために働かなければならない。
もう十分に世界のために働いた気がするのだがな…

俺はこの会社に入社して、約4ヶ月経った。
それなりに空気に溶け込めるようになった。
しかし問題ってのは沢山ある。

問題というか不思議だ。

「どうかしましたか? あまり気分が良さそうでは無いですか」

そう、第一の不思議。
俺が働いている職場に古泉がいる事。

「もう一度聞こう、なぜお前がここにいる?」

「会社の一員だから、です」

古泉によると、ハルヒの能力が消えてから一週間後に機関は解散されたらしい。
同じく情報統合思念体も。

今の5人の生活? 気になるのか?
まぁ教えてやる。

俺と古泉は同じく職場で働いている。 Why?

朝比奈さんは保育士。
近くの幼稚園の先生だそうだ。
あぁ… 朝比奈さんが先生ならどれだけ羨ましい事か…

長門はよくわからん。
パソコン関係の仕事、としか教えてくれない。
まさか既に大手の会社の上位にいたりしないよな…?


最後は、ハルヒだな。

もちろん俺と結婚して幸せな生活を送っている。
まぁ…ただいま大変な事態になっているがな。
そのうちわかるだろう。

「古泉さん、3番からお電話です」

「わかりました」


この会社は何かと忙しい。
その割には合わずに給料が少ないという不条理だ。
更に残業という最悪な事態も発生する。
その分、自宅に帰宅する時間が遅れる。

まぁ今は家には誰にもいない。
わかるか? ハルヒは入院中だ。
結構前の話なのだが

『子供が…出来たみたいなの…』

結婚式の夜からは想定出来るのでそれほど驚かなかったのだがな。


帰宅する前はハルヒの入院している病院に行き、30分程経ってから自宅へ。

本当はもっと話たいのだがハルヒは予想以上の睡魔がくるらしく、早めに俺は引き返す。

休日は、ほとんどハルヒの傍にいるがな。

「さて、僕はお昼を食べに行きますが一緒にどうですか?」

「そうだな、そうする」

ハルヒが入院しているため仕事の回復アイテム“愛妻弁当“が無いんだよなぁ…
前まではもうたまらん程に愛が込められていたのだが、最近はコンビニ弁当か近くの店で
済ませている。

どれもハルヒの料理に比べたら失礼な程に悪いのだがしょうがなく腹に入れる。
あぁ… ハルヒの料理が食べたい…

自分で作らないのかって?

俺が料理したら金粉を埃に変える程失礼な威力をもつ物が完成してしまう。


「イタリアンなんてどうです? 良い店を知っているのですが」

「却下だ」

男二人でイタリアンを食べる程、嫌な時間は過ごしたくない。

俺らみたいなやつなら定食屋でいいんだよ。
















飯は食い終えて再び会社へ。

自分のデスクに向かい、せっせと与えられた仕事をこなしていく。

「お茶です、どうぞ」

懐かしき光景と似たような感じだ。
朝比奈さんによく似た女性がお茶を持って来てくれた。
髪は黒く、スタイルもよく、胸は朝比奈さんに劣るがそれなりの、社内ではかなり人気の
高い女性だ。

もちろん、狙っている男も数多く存在している。
聞いた話によると。

『工藤さん、お前に惚れてるらしいぞ?』

工藤さんってのが、この女性の名だ。
これを聞かされたのはざっと一週間前に上司から。

彼女は俺が結婚している事を話すとかなり驚いていた。

その後も、別に変わらぬ接し方をしてくれて俺としても気が楽だ。


「お味はどうですか?」

「とても美味しいですよ」

彼女は昔の朝比奈さんのような笑顔をしてからこの場を去って行った。


とても懐かしくい。 けれども少し泣けてくる。

あの生活に戻りたいと感じたから。

ハルヒが中心に立ち、長門、朝比奈さん、古泉、そして俺で形成されていたSOS団に…


ハルヒが恋しい。
早く仕事を終わらせて会いたい。






ブー ブー ブー


鞄に入っていた携帯のバイブレター。

画面上にはハルヒの入院している病院の名が。

急いで携帯を開き、通話ボタンを押す。

「もしもし?」












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俺は現在、とても落ち着かないままタクシーに乗っている。
当たり前だ、もう少しで出産するだと?
かなり驚いたじゃないか…

予定では後三日後。 かなりズレたな。




会社を出る前。

急いで電話を切り、上司に状況を説明して外へ出た。

なかなかタクシーはつかまらずに、6分程してからやっと、このタクシーに乗れた。



















タクシーってこんなに走行スピード遅かったっけ?
安全運転などいいからもっとスピードあげろ!







走行スピード変わらず、時速20km。
なめてんのかこの運転手…

赤い帽子を被った中年オヤジみたいにキノコを取ってスピードあげてほしい。
あれってどういう原理で速くなるんだ?
カートにキノコ食わせんのかな? まぁいいか。




「到着しました、合計1600円です」

財布から2000円取りだし
「お釣はいらない」
と言ってタクシーを飛び出た。
うん、一回やってみたかったんだよ。

そんな事より電話が来てから既に1時間弱が経過している…
あまり会社から病院までは距離は長くないが、なぜかこんな時間帯に渋滞に巻き込まれる
という悲劇のために遅れてしまった。

「ぜぇ… はぁ… はぁ…」

大病院なため、敷地面積が広い…
まだ門を潜ってから玄関までにもついていないぞ…

待ってろよハルヒ! 今助けてやるからな!













「病院内で走らないでください、他の方に迷惑がかかります」

病院内でも駆け走る俺!

「すいません」

心が折れやすいのが特徴。

しかし歩くなんて事は出来ず、少しでも距離を稼ごうと早歩きになる。
そしてダッシュ。

「あの、困ります、病院内では静かに歩いてください」

既に看護婦さんに8回程注意されたっけな。
今は学習能力0なんだ。


んな事より! ハルヒが先だ!

目の前にある最後の壁を横におもいっきりスライドさせて

「はぁ… ハルヒ… ハルヒイィィ!」

目の前にはドクター1人、看護婦2人・・・ そしてハルヒ。

ハルヒの腕の中には白いタオルで巻かれている何か。

「遅いわよバカキョン! 罰金なんだから!」

「すまん・・・  ぜぇ・・・はぁ・・・」

ドクターが笑顔で

「女の子ですよ」と。

よかったぁ・・・ これでハルヒの願いがかなったんだな・・・
もしかしてハルヒの能力が消えたから男の子の確立もあったが・・・
まぁ結果オーライって事だな。
このハルヒの満面の笑みを見る限り嬉しそうだし。

「ふっふ〜ん♪」

満足そうに我が子を眺める嫁。

「俺にも見せてくれよ」

ハルヒのもとに駆け寄る。

「あぁー、もう。 静かに動きなさいよ、今この子寝てるんだから」

「あぁ・・・ すまん」

なんかこの病院に来てから謝ってばかりだな。
まぁいいが。
それより我が子の寝顔を拝見しよう。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「何?その沈黙」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なんか感想言いなさいよ!」

「すんげぇな、DNAって」

目の前の天使のような寝顔をする我が子。
それはそれは、激、ハルヒ似だった。
遺伝子をこんなに実感する時なんて生きているうちに最初で最後だろう。

「私そっくりでしょ?」

「だな」

今後もハルヒのように育つなら俺が変えてやる。
いや、ハルヒには悪いが・・・ 我が娘は平和で明るく元気に育ってもらう。

「何よそれ・・・ 私の人生が半分意味無いみたいじゃない」

「中学の時何してたか言ってみろよ」

「それは・・・」

ここで言葉が途切れ何も言わなかった。
そりゃそうだ、聞いた話では、本当に中学時代はいい思い出がないらしいからな。

「だろ? だからこの子には俺よりもハルヒよりも幸せな人生がおくってほしいと俺は思う」

「はぁ? 無理に決まってるじゃない。 私たちは世界で一番の幸せ者なんだから!」

なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
それよりもハルヒ、し・ず・か・に だろ?

「むー・・・ バカ・・・」

バカ言われようがアホ言われようが今は無礼講だ。
なんつったってファミリーが増えるわけだ。 嬉しいに決まってる。

「そういえばハルヒ。 確か名前決めてあるとか言ってたよな?」

「あれ? えっあぁ、そうだったわね」

まさか忘れてたとか言わないよな・・・?

「そんなわけないでしょ!?」

じゃぁなんだその焦りよう・・・
忘れてたのか・・・  ハルヒらしくない・・・

「うっさいわね! ちゃーんと覚えてるわよ!」

ほほぅ? なら聞かせてもらおうか、その子の名前を。

「心して聞きなさい!」

「あぁ」

女の子の名前か。
自分の中では結構候補があるのだが全て却下されるだろうな。
まぁいいさ、ハルヒの言うとおりにしよう。

「名前は『ハルナ』! 季節の『春』に、奈良の『奈』! これで『春奈』!」





「ハル? 自分の名前から取ったのか?」

「そうよ。 きっと私のように文武両道で素晴らしい大人になるはずよ!」

「静かにしろって・・・」


こんな会話なんて興味ない。
とでも言いたそうな寝顔だな・・・  いかにもハルヒらしい・・・

俺としても『春奈』には文武両道になってほしいと願うが・・・
男なんてつくったら許さないからな?

まぁまだ先の話だ。
今はこの時間を感じよう。












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後々、ドクターから聞いた話なのだが。

ハルヒの出産は今までに無いほどの安産で、一瞬で済んだそうだ。
さすがハルヒだな。


「出産ってもっと辛いかと思ったけど意外と楽だったわ」

「男には一生わかんないさ」

わかりたくないがな。





ハルヒの抱える我が子は本当に可愛かった。
あぁぁ・・・ これが幸せかぁ・・・

「これで完璧に繋がりが出来たわね、辛いからって逃げたりしたら許さないからね?」

「あり得ないな、俺は一生お前と春奈を守ってやるさ」

「ふふふっ、応援してるわ」

帰りのタクシーの中でかなり恥ずかしい会話をする夫婦・・・
運転手がにやけてる・・・

「それよりもキョン? 私が居ない時に浮気とかしてないでしょうね?」

「してるはずないだろう」




あぁぁ・・・ 運転手のニヤケが更に増してる・・・

普通に恥ずかしいんだが・・・







でも、何より。
家に帰ろう。
そして呆れるほどにハルヒと話そう。
春奈の事。 俺の事。 ハルヒの事。


そして。


今後の事。

幸せな家庭を築くための事を。