運命の日ってのは早々とやってくる。
ストッパーを付けようがボンドで固定しようがいずれはやってくる。
遅かれ早かれほとんどの人がしている結婚。

俺にはイマイチ重要性が理解出来ないがな。
まぁ女性にしては人生の中で一番楽しみになのかもしれない。





「準備が完了しました、会場へどうぞ」

「は、はい」

妙にテンパった状態で部屋を出た。
なんかタキシードって俺には似合わない気がするんだよな…

でもハルヒのウェディングドレスは絶対似合っている。 断定しよう。

「よっし」

頬を二回程叩いてから深呼吸をしてハルヒを待った。

どんな感じがいいんだろう。
『綺麗だ』とか『可愛い』とか言った方がいいかな?
いや、もちろん言うつもりだが、いい台詞が思い付かない。


「あ〜 だめだ」

緊張が高まっていくのがわかる。

「あら、キョン」

ビクゥッ!としてから、ゆっくり振り返ってみる。

振り向きざまにズズズズズズーと効果音がしてるはずだ、多分。

「どう? 私的には結構似合ってると思うんだけど?  ってキョン? 大丈夫? 魂抜けて
るわよ」

「お、おぅ!? あぁ、あぁ…  どちら様?」

むすっとした顔ウェディングドレスを着た女性は俺を睨み付ける。

「あんたのお嫁さんじゃない! 何? 残念な程に似合わなくて唖然としてんの?」

「逆だ逆!  似合いすぎて言葉で表せん」

「なら正直な今の気持ちを言いなさい」

ブーケを俺に向けてウィンクしながら言う。
今のお前がRPGゲームの姫ならば裏技を使ってでも助け出してやる。

「愛してる、でいいか?」

はぁ… と溜息をつくハルヒ。

「感想聞いてるのに『愛してる』って何よ」

「更に愛する程に綺麗って事だ」

まぁ嘘は言ってない。
一度しか見られないこのハルヒの姿を目に焼き付けよう。

実を言うとレンタルなんだな。
ハルヒが言うには

『別に買わなくてもいいわよ、脳裏に焼き付けて心に刻み付けなさい』

焼き付けて刻み付けとダブルで行う。
まぁ買おうと思ったら大出費だしな。

「キョン、行くわよ!」

ハルヒはぎゅぅっ と俺の手を握り扉の前まで歩いて行く。

さて、この先にどのくらいの人がいるのだろうか。
数人しかいなかったら泣くぜ?


「深呼吸しなさいよ、あんたのことだから緊張しすぎて固まるだろうし」

言われたとおりに深呼吸して、俺もハルヒの手を握り締めた。

さぁ行こうか。



ガチャァッッッ……






「ほぉ…」

定番の曲が流れ、それと同時に大量の拍手が。

ハルヒの言う通りに深呼吸してよかったな…
もしかしたら緊張しすぎて硬直していたかもしれない…

「緊張してる?」

扉を開けたところからまだ動かずに目の前の状況を認識している俺。

「そりゃ… なぁ…」

客席は満満員。
まさかここまで集まるなんて思わなかったな…

「さっ、行くわよ」

ハルヒがリードして俺の手を引っ張っていく。
これじゃあ男の面目が丸潰れじゃないか…

「うぉっ、キョン! カッケーな」

客席からこのような発言がいくつも聞こえる。
気になるのが、

「キャァーーッ! 涼宮先輩ー!」

などというハルヒへの声。
そういえばハルヒは後輩から何故かよく告白されたらしい。
いや、後輩の“男“じゃなくて“女性“からだと、ハルヒは言っていた。
同性かよっ、と俺が突っ込むが実は高校時代からされていたらしい。
男女に色々な意味で人気なのだ。

ハルヒに手を出したら男ならコロス、女性なら、まぁ… なんだ… 考えとく。

教壇まで行き神父が喋り始める。
しかし俺は緊張と隣りの女性により心臓が圧迫されて五感の視覚以外が働いていない。





「永遠の愛を誓ますか?」

「…」

「ちょっとキョン」

ハルヒに肩を叩かれやっと我に帰る。

「永遠の愛を誓ますか?」

「はい」

もうだめだ…
とにかくハルヒに目がいくと、くいづけになり頭が動かずなくなる。

「では、誓のキスを」

ハルヒがこちらを向き俺はギーコーギーコーと機械っぽい音を鳴らしながらハルヒと向か
い合った。

「緊張しすぎよ、肩の力抜きなさい」

「お、おう」

スー…ハァー… と深呼吸をしてハルヒに少しずつ顔を近付ける。

「ふふふっ」

ハルヒの妙な笑顔が一つの物語を終えた。
俺とハルヒのこれからの物語では無くて、俺とハルヒが出会ってからの物語。

この時はまだ知る予知が無かった。






この時のキスが今までの中でベストを飾る程よかった。






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「羨ましいなこのヤロー」

大学の友人に叩かれながら会話していた。

「キョンよ、涼宮さんを大切にしろよー」

「あぁ」

周りは友人ばかり。
そのせいでハルヒの姿はまったく見えない。

「おっと、ちょい開けてくれ」

向こう側に手招きする人物がいたので向かった。

「なんだ?」

「いやぁ… ちょっと問題が発生しましたね…」

いつもの笑顔は消えた古泉が俺を呼んだ。

「問題? またハルヒ関係か?」

「まぁ… そうなんですが…」

古泉らしくないな、歯切れの悪い…

「ハッキリ言えよ」

「単刀直入に申し上げます」




「涼宮さんの能力が消えました」



「まじかよ」

「いたってマジです」

ハルヒの能力が消えた?
あの神的能力が?

いい事じゃないのか?

「いい事なんですが、急すぎます。 あなたと涼宮さんが誓のキスをした瞬間に消えた、
と機関からの報告です」

「ハルヒ自身に支障は?」

「おそらく無いでしょう。 彼女自身は能力にも気付いていないだろうし問題無いと思い
ますよ」

なら安心だ。 これでやっと普通の生活が出来るわけだ。

「お前は超能力者のままか?」

スマイル0円モードに戻った古泉。

「いえ、僕の能力も同時に消えました。 まだ機関とは連絡が取れますが時間の問題で
しょう」

となると長門や朝比奈さんも?

「でしょうね」

そうか。
長かったな、このハルヒの能力の対策。
いや、面白かったさ。 普通の人間には体験出来ないだろうしな。

「ふふふ、僕にもいい思い出が出来ました。 感謝します」

「感謝ねぇ…  こちらからもだ。 機関にも伝えといてくれ」

「承知しました。  あっ、それと」



「結婚おめでとうございます」

「ありがとう」













*



「キョン! 古泉君! SOS団で写真撮るわよ!」

懐かしいな… SOS団か。
世界を
おおいに盛り上げる
涼宮ハルヒの
団。
略してSOS団…

今更だがこいつのネーミングセンスの無さには驚きだ。

「何? 文句あるの?」

「いっぱいあるさ」

いったいハルヒのせいでどれだけ迷惑がかかった事やら。
でも今日で最後…  今までのは水に流してやる。

「四人とも並んで!」

とぼとぼと、ハルヒに指定された位置に立ちカメラを凝視した。

前列に長門、ハルヒ、朝比奈さんの順。
後列に古泉、俺。

ハルヒはブーケを持ったまま二人の手を寄せて停止した。

「もし目瞑ってたら許さないからね! 特にキョン!」

長門なら大丈夫そうだな… などと考えている内にめいいっぱい瞬きしておいた。


「はい、ちーず!」









「皆集合ー! 写真撮るわよー!」

ざわざわと集まる知人たち。
ハルヒの一言でここまで一斉に動くと思ったらすごいな。

「キョーン、腕組んでいいわよね?」

究極の笑顔で俺に微笑みかけながら問い掛けるハルヒ。
正直たまらん。

「好きにしろ」






ざわざわが止まり、後はフラッシュが出るまで待つ。

「皆さん、いきますよー、 はい、ちーず!」

パシャッッ!







「「「ヒューヒュー」」」

「「熱いねー!」」

などという歓声がわいた…
当然だ、ハルヒがフラッシュが出る瞬間に俺の頬にキスをしてきたからな。
確か、口紅ぬってあるよな…  ってことは… 頬にキスマーク付いてんのか?

「キョンは?」

「ん?」

いきなり俺の愛称を言われても困る。

「お返ししろよー」
「今更恥ずかしがる事じゃないぜー」

「はい、キース! キース!」


友人たちのキスコールが広まった。

そこまで言うなよ恥ずかしい…
ほらみろ、ハルヒも頬が赤いじゃないか。

「やれやれだ」

「何よ、いやな… んっ!?」

周りから聞こえる拍手と歓声。
嬉しいのやら恥ずかしいのやらで複雑だ。






*



「はわぁー…」

頬を赤くして生気の無いような声の朝比奈さん。

「どうかしましたか?」

「あっ、いえ…   カッコいいです、キョン君」

「あっ、はぁ、どうも」

頭を軽く下げる。

朝比奈さんのウェディングドレス姿もすごく見てみたい気がするが…

すると、どこからともなく

「みくるちゃん、そんなに褒めたらキョンに襲われるわよ」

ハルヒがやってきた。

「へっ、そうなんですか?」

「誤解されるような事を言うな」

「どうだか、キョンの事だから浮気するに違いないわ」

失礼な…
俺は一度惚れた女性には全て捧げるつもりだ。

「ふーん、まぁいいわ」

満足そうなハルヒの顔が俺の網膜には映っていた。

「朝比奈さんは結婚しないんですか?」

「私ですか? とんでもない、私と付き合ってくれる男性なんていませんよ…」

何を言い出すんだこの人は…
あなたが『彼氏募集中!』と言えば男共は食いつきますよ?

「そうですかぁ…?」

「みくるちゃんはお嫁に行かせない! 私が許さないんだから!」

更に何を言い出すんだこの女は…
朝比奈さんが自分の娘とでも思ってんのか?
後そんなに朝比奈さんにベタベタするな。

「涼宮さん、くすぐったいですよぉ!」

「まだまだねみくるちゃん」

何がだろう…?

めう終わりそうにないコントなのでその場を後にした。


「長門」

飯を猛スピードで食べるやつを止めた。

「どうしたの?」

「ハルヒの能力が消えたって本当か?」

長門は持っていたフォークと皿を机においてから。

「本当。 涼宮ハルヒの能力は15時35分13秒に消滅した」

やはり本当なのか。

「ならば長門も普通の人間になったって事か?」

「理論上そうなる」

「よかったじゃないか」

「よい。 あなたに伝えたいことがある」

「なんだ?」

「結婚おめでとう…」




俺は正直驚いた。
長門から普通にこの言葉が出るなんて思っていなかったしな。

「ありがとう」








*





「くぁー! 羨ましいぜキョン!」

「ん? そうか?」

谷口が現れた。

「涼宮さん、本当に綺麗だったね」

国木田も現れた。

「まぁそうだな」

「まさか涼宮の株があそこまで上昇するなんて…  くぁー、もったいねぇ…!」

妙にテンションの高い谷口。

「悔やんでてもしょうがないよ谷口。キョン、結婚おめでとう」

「まぁな、涼宮を大切にしな。結婚おめでとう」

俺はいい友人を持ったな。

「ありがとな」










「にゃはぁー!  キョン君じゃないかっ!」

「あっ、どうも鶴屋さん」

「ん〜、カッコいいねっ! めがっさ似合ってるよっ!」

鶴屋さんの褒め言葉はお世辞のような感じには聞こえないから俺としては嬉しい。

「ふ〜ん、へ〜ん、ほ〜ん」

何か言い方のわからない活用形の言葉を連呼している鶴屋さん。
あまりジロジロ見られると恥ずかしいのですが…

「なんでもないっさ! ハルにゃんと幸せにね! 結婚おめでと! 今夜はお楽しみか
いっ!?」

「ありがとうございます。お楽しみかは、ハルヒの気分次第です」

「そうかい。 じゃぁ次はハルにゃんの所にいってくるにょろ」

「わかりました」

「ばいばーい!」


片腕を大きく振り去っていく鶴屋さん。
まったく元気な人だ…
あんな方が嫁だったら、きっと家庭は毎日明るいだろうな。
















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「あ〜 いい湯だった」

「あら、お帰り」


自宅に戻って来てからの話だ。

帰って来た頃にはPM11:25をさしており、とりあえず各自風呂に入った。

「どうすんだ? 俺は明日でも構わないが」

深夜のニュース番組を見ていたハルヒが振り向き

「今日じゃなきゃだめよ、もう二人とも体は綺麗なんだから行きましょう」

バスタオル一枚を体に巻き付けたハルヒが俺の手を引っ張り寝室に入場した。

「じゃぁ… キョン… よろしくね…?」

ゴロンと仰向けになるハルヒ。

俺は腰に巻かれた一枚のタオルの裏に今にも暴走しそうなものをとどめている。

「あぁ、よろしく」

ベットに上がりハルヒに近付いて行く。

「そのー、なんだ… 痛かったら早く言えよ?」

「う、うん…」







さて、ここから先はプライバシーだ。
何を言おうが知らん、拒否権を全力作動させる。

一つの物語が終わった。
そしてもう一つの物語が始まる。


ハルヒ、これからもずっとよろしくな。











涼宮ハルヒの幸福2   fin