『バカバカバカバカッッ!!』

『心配させたな…』

『あんたが戻ってきただけでも…いいのよ…! 本当に心配したんだから…!』

『すまんな。俺はいつもお前の心に宿ってるし、こうして目の前にいる。もうどこにもいかない』

『バカァッ…! もう絶対に離さないんだから…!』














俺はテレビに入るのか?ってぐらい観入り、缶ジュース片手にソファーに座っていた。
隣りからは鼻水をすするような音と微妙な泣き声。
一応見ないようにしているがどうも気になる。
ハルヒって恋愛系に弱かったっけ?

「ぁぁぅぅ… きょぉん…」

肩を寄せて頭を撫でてやる。
こんな状況ならやるよな? 普通。

『ありがとう…』

この言葉を最後にスタッロールが流れ始めた。
たまには恋愛物もいいな。 結構感動した。
ハルヒは号泣のようだが無理もない。
日本中でかなりの人気が出た恋愛映画がDVD化してハルヒの家、否、自宅で観ているわけ
だ。
俺も心の中では感動しているのだが表には出さない。 これが男ってもんだろ。

「うぅ… えっぐぅ… きょぉん…」

最近… いや、俺が海外から帰ってきてハルヒが泣いた時から今まで一度も泣かなかったハルヒが久々に泣いた。
まぁ心は強いほうなんだうな。

「ほら、泣くなよ」

「きょぉんがぁ… こうなったらぁ… ぁぁぁん…」

過去になった記憶が…
それ以上にもうハルヒか離れようなんて思ってもいない。

ハルヒの泣き顔は俺の何かをそそるが手を出すわけにはいかない。
だがハルヒには笑顔の方が100%似合う。

「って、ぐっ…」

ハルヒは俺に抱き付いて、顔を腹に埋めて締め付ける。
腹が痛いって…


スタッフロールが終わり“Fin“の文字が出てきてからメニュー画面に戻った。

「きょぉんん… これからもずっと一緒にいてよぉ…!」

「心配するな、ずっと一緒だ」

「ぁぁぁぁん…!」

夜中なのに大声で泣くハルヒ。
これがアパートやマンションだったら玄関からドンドンと叩く音が聞こえるんだろうな。

片手でハルヒの頭を撫でて、もう片手に缶ジュース。
机に缶を置きたいがとどかない…










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あれから数十分が経った。
現在時刻はAM2:15。
明日は日曜日なため、別にこんな時間まで起きてても大丈夫だが…
俺は現在進行形で睡魔と戦っている。

「こらーーっ! まだ寝るには早いわよ!」

さっきまで大泣きしていたやつが何をいうか…
てか、元気だな… ハルヒよ…

「そろそろ寝たいんだが…」

「うー」

ハルヒはアヒル口で俺に視線を向ける。
そんなに顔が近いと唇を奪っちゃうぜ?





冗談だ。


「しょうがないわね、膝枕してあげるから我慢しなさい!」

自分の膝をパンパンと叩いていかにも誘っているかのような感じだ。

俺は引きつけられるかのように頭をハルヒの膝に乗せた。

あぁ… これがヘブンか…
気持ちがよすぎる… もう一生このままでも構わない。

「どう?」

最高級のフカヒレよりも柔らかい。
値段を付けるなら国家予算でも買えないと思う。

「あんたは特別にサービスしてあげる」

そうか、それはありがたい。
他にもサービスはあるのか? あるなら是非お願いしたい。

「そうねー。 後はキスと抱き付く事も可能よ」

「どっちともお願い出来るか?」

とうとう俺も心が完全にハルヒ色に染められたらしい。
まぁ一言で言うと、俺は幸せ者だ。

「お承りました♪ ご主人様」







なんてやつだ。
さっきの発言で俺の魂に何か変な感情が沸いてきた…。
なんだこれは…。
てかキャラがズレすぎてますよ…

「どうしたの?」


ハルヒを従わせたい。 命令したい。
完全に俺も物にしたい。そんな独占欲が俺の中で拡大している。


「キョン?」




だがハルヒを悲しませるならば死んだ方がマシだ。



俺はそのまま膝に頭をおき、ハルヒを見上げていた。

「何よ、なんか顔についてるの?」

「あぁ」

必死にゴミを探るハルヒを見ながら俺は苦笑していた。

もちろん顔にゴミなど付いていない。

するとニヤニヤする俺を凝視するハルヒ。
そこから睨み付けるに変更。

この睨みなら竜でも怯えるな。
すなわち俺はかなり恐怖を感じている。

「私を騙すなんていい度胸じゃない」

「まぁ気にするな、ほんのおちゃめだ」

「この年になって“おちゃめ“とか言うバカがいるなんてね」

バカで結構。
お前が高校時代からバカバカ言うから成績が少しは下がったぞ。

「何言ってんのよ。 キョンはキョンらしくしてればいいのよ」

「はぁ…」

となると、バカはバカでいろ、って事か?
いいご身分な事だ。

「キョンかぁ…なんか…なぁ…」

ボソッと呟くハルヒ。

「どうした?」

するとハッと我に返ったかのように俺を見下し。

「えっ、私何か言った?」

「何か現状に不満そうに声を漏らし、いかにも俺と付き合ってる事を後悔してそうな発言
をしていた」

細かく説明する俺もなかなかすごいと思う。
なんか不安になってきたぜオイ。

「何を言おうが時間は戻らないし、私は現状に大満足よ」

「ならいいがな」

確かに時間は戻らない。
何をしようが明後日が俺とハルヒにとって人生を大きく左右する日になる。

何年も前からハルヒはこの日を楽しみにしているようだが、俺は別に楽しみにはしてなかった。


明後日か…


本当に短かったな。
俺とハルヒが付き合ってから今日までには色々あった。

「キョン」

いったい何度この名詞は使われただろうが。
数え切れない程の思い出と共に。

「明後日は絶対に風邪とかになったら禁止よ」

無茶を言うな。
病原体を滅殺するようなオーラはお前にしか無い。

「“おまじない“してあげよっか?」

「なんだそれ」

“おまじない“とは?
痛いの痛いの飛んでけー☆ とかか?
それで飛んで行く程弱い病原体はいないだろうし、そんなので病原体が消えるならば人間はここまで苦労していない。

「じゃぁ“おまじない“!」

「何するんだ? …っんんー!」

“おまじない“と言うか“キス“の方が正しい。
ふむ、これが涼宮流の“おまじない“か。 覚えておこう。

「これで風邪は引かないわよ、安心しなさい」

なんだかなぁ…
まぁハルヒが言うなら100%風邪は引かないだろうしな。

「…」

「ハルヒ…?」

「… スースー…」

どうやら寝てしまったようだ。
膝枕されて寝るならわかるが俺より先に膝枕して寝るなんてな。

「明後日だなハルヒ」

寝息だけしか帰ってこないがまぁ別にいいさ。

「短かったよな、これまでの人生」
「こっからは折り返し地点かもしれないが、これかもよろしくな」

綺麗な寝顔してるな。
他の男に見せたら絶対に襲われるかもな。
俺には見してくれてるんだ。
その代わり、俺は絶対にお前の笑顔を守ってやるよ。





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「くおぉぉぉ…」

眠気がMAXな上にハルヒをお姫様抱っこして階段を上っている。
もう体も大きくなり体重は… なんだ結構軽いじゃないかハルヒ。
じゃあこのグラビティーはなんだ?











「ふぅ…」

寝室まで行きお姫様を仰向けに寝かせ布団をかけてやる。

「寝るかな」


最近購入したダブルベットに入り込みハルヒに密着してみる。

んー、幸せってこの事か。

拒みもしないハルヒの片手を握り締めて目を閉じた。






明後日なんだ。

俺とハルヒが永遠の誓いをする日。

ハルヒと大学を卒業したら真っ先にすると約束さた事。
“結婚式“だ。


おやすみハルヒ。

共にいい夢を見ような。