涼宮ハルヒの幸福2-6


家に帰宅して一番最初に出迎えてくれたのは妹。

「おかえり、キョン君」

高校に入って少しは大人びて見える。
しかし俺を呼ぶ時は必ず『キョン君』。  これだけは変わらない。

「キョン君って一人暮らしとかしないの?」

出ていけ、とでも言いたいのか?
更に残念ながら一人暮らしは永遠に出来そうに無い。

俺は寂しい人間じゃないからな。

「ハルヒさんとは進展あった?」
「別に、お前の知ったこっちゃない」
「あったんだ」

ボソッと呟く妹。
察しがいいやつめ…

「もしかして… 大人の「腹減ったー」」

こいつ…
小学生の時は割と普通だったのにいきなりレベルアップかよ…
まぁ高校生なら普通なのだが…

「飯は何かなー」
「あぁぁ、逃げるのー?」

そのまま妹を無視し続けて自分の部屋に戻った。


「はぁー…」

溜息をしてからベットに横になった。
眠いわけでも無くただなんとなく。




別に、寝れないわけでは無い。

「一人暮らしか…」

ハルヒに言えばどうなるか。
普通に承諾してくれるはずが無い。


プルルー プルルー プルルー。

携帯のバイブレター。
誰だ? 今は考え事してるんだよ。

『着信 涼宮ハルヒ』

ハルヒか、ついでに相談してみようか?

「こんな時間にどうした?」
『キョン…』

電話の向こう側からは、いかにも元気のなさそうな声。

「元気なさそうだな」

『うん… 迷惑だった…?』

なんてハルヒらしくないハルヒの声…
もうちょっとシャキッとした感じの声をしろよ…

「別に構わない」

『ごめんね…』

これまた久々にハルヒの謝罪の言葉を聞いたぞ…

「何か悩みごとか?」

『なんか… 今更だけど… 寂しい…』

ほんとに今更だな…
さっき外で今日は大丈夫って言ってたよな?

「そんだけか?」

『そんだけよ、文句あるの?』

少しハルヒらしくなったな。
やはりこっちの方がハルヒらしい。

『ちょっとキョンの声が聞きたくて』

「俺の声?  なんなら録音でもしてやろうか?」
『いらない』

軽く傷付いた。
あの話をしてみるかな。

「そうだ」

『何?』

「そろそろ俺も年頃だから一人暮らしでもしようかと思うんだが」

『どこに!?』

怒鳴り声が聞こえた… 耳が…
いきなりあんな大声で叫ばれたら驚くぞ…

「もう大学も卒業間近だし好きなところでも行こうかなと」

『はぁ!? ふざけんじゃないわよ!』

なんで怒られてんだ…俺…

「いや、だか、、、」

『許さないからね!却下!』

俺に選択権は無いのか…?

「ハルヒ、理由を教えてくれ」

『あんたはわたしの傍にずっといなきゃだめなのよ! 一人暮らしなんてしないでわたし
の家に住みなさい! 同棲って事なら大丈夫でしょ?』

「なるほどね」

確かに同棲すればハルヒと一緒にいられる時間が長くなるし俺としても嬉しい限りだ。
しかし

「お前の親にはなんて言うんだ?」

『いいわよ、最近週一ぐらいでしか帰ってこないし』

だめじゃん…
まぁいづれか挨拶しなきゃならないのだが…

『大丈夫よ、キョンの話はよくしてるし』

いつの間に…
お前には恥ずかしいって言葉が無いのか?

『明日から… ダメ…?』

可愛らしい声が聞こえた。
ぬぉぉ… これは…かなりキタ…
今のハルヒの姿が見たい! 心底思ってる!

『パジャマ姿でゴロゴロしてるわよ?』

見たいっ…
きっとものすごく可愛いんだろうな…
あぁ… 愛してる… 

『わたしもよ、早くキョンに合いたいよぉ』

合いたい… ものすんごく…
久々にこんな気持ちになった…

『やっぱり寂しいよ…』

そうだよな、ハルヒは家に家族がいないんだよな…
そりゃ寂しいよな。

「明日まで我慢出来るか?」

何をだろう? 自分で言っててもわからない。

『ぅん… その代わりに… 少しだけ付き合って…』

「何をだ?」


その後、電話の向こう側からは物凄くいやらしい声が2分程続いた。
俺も男なわけで興奮しないわけがなかった。




*





『ごめんね…変な事に付き合わせちゃって… どうしても我慢出来なかったの…』

「まぁいいさ、じゃぁそろそろ切るぞ?」

『その前に… ちゅー して…』

どうやって!?

『携帯の声聴くところに…』





しかたなくやってやった。







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次の日。
実際、本日はハルヒも俺も授業を取っていない日だった。
たまには遊びにいきましょう、というハルヒに従い休日にしたのだが…
気付いたのはついさっき。
まったく…


ピンポーン。



来たか。
窓を開いて外を見てみると元気よく手を振るハルヒが映った。
俺も片手でフラフラと手を振りアクビした。
するとハルヒは人差し指と親指だけを立てて銃のような形を作り、
「バーンッ!」と言った。

俺は撃たれたのか?
しかもそのハルヒの行動は何気に女の子っぽくて可愛かった。







「キョーン♪」
扉を開けると同時に俺を呼ぶ。
「よっ」

「今日は存分にイチャつくわよ?」

いつの間にそんな予定が…
俺には報告が一切なかったが?

「キョンの匂いだぁ」

俺の背中に飛び付き犬みたいに匂いを嗅ぐハルヒ。
微妙にキャラが変わってる…

「どんな匂いだよ…」

「キョンの匂いはキョンの匂いよ」

意味不明。

そしてハルヒは背中から降りて正面から俺に抱き付いてきた。

「ん〜」

目を瞑って顔を近付けるハルヒ。
もう存分にイチャついてやるよ。












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「ギ… ギブ…」

「早…」

つかれた…

「ハルヒと居ると楽しいな」

「そぅ? ならいいけど」

「なぁハルヒ」

「何?」

「同棲… してもいいのか…?」

少し恥ずかしいな…
ハルヒの顔は明るくなり。

「全然構わないわ、むしろ大歓迎よ!」







親に伝えようと一緒に階段を降りていく。








「……………ってわけでハルヒと同棲しようかと」

親なら少しぐらいは反対するかと思ったが。

「涼宮さんなら構わないけど?」

と、両親は軽く承諾。

しかし条件付き。

「涼宮さんの承諾無しで手を出すのは禁止」

承諾があればいいのか?オイ…






「今日から来れる?」

「荷物まとめないとな」

クローゼットからいるものだけ取り出して大きなバックに突っ込む。

「それと」

ハルヒが突然喋り始めた。

「わたしはいつでもOKだからね?」

さっきの手を出すとかの話か?

「そうよ」

またとんでもない事を…
そんなベットで無防備に仰向け寝っころがってたら、襲うぞ…

「構わないわよ?いつでも来なさい」

ハルヒに脅迫と脅しは効かないようだ。
まぁそんな事は、わかっている。

「ていうより…」


ぶっちゃけた話なんだが。

ハルヒの家に住むことになったのっていつだ?
いや、待てよ…  俺は一人暮らしが目的だったはずなのだが…
なんか流れに流されてしまった…

「ハルヒ、本当にいいのか?」

「何がよ」

「俺が一緒に住んでいいのかっていうことだよ」

クローゼットをあさる手が停止した。
同時に足が動きハルヒの方へ歩き出した。

「あんたがどうしても、って言うから しかたなくよ」

なら昨日の電話はなんだったんだよ…
寂しい? 合いたい?
嘘じゃねーかよ。

「人間は進化するのよ」

進化するからなんだよ。
じゃぁなんだ? 別に一緒に住まなくてもいいってことか?

「じゃあ、やめだ」

「へ?」

「進化したなら大丈夫だろ?」

寝っ転がるハルヒはバッと起き上がった。
俺の足はベット付近で停止してハルヒと反対側に腰を降ろした。

「やめだやめ」

そのままゴロンと寝っ転がり瞼を閉じた。
別にハルヒの望みじゃないなら行う必要もないしな。

「キョン、今から言う台詞をよーく、脳に焼き付けなさい」

何を焼き付けるんだ? 雑学か?

「わたしは、あんたが大好き。 だからあんたがいない時間は物凄く寂しい。 一緒に居て
ほしい。 けど… その…」

ハルヒはここで詰まってしまった。
昨日の様子からしてそれくらいならわかる。

「キョン、だから… ね… そのぉ…」

なかなか喋り出さないハルヒ。

「つまり一緒に住んでほしいと?」

「そ、そうよ」

女性ってのは皆こうなのか?
なんか自分勝手すぎやしないか…?

「だから… お願い…」

オールオーケー。
今のハルヒは物凄く可愛い仕草をしているのだが…
見てるだけで狂いそうだね。 恐ろしい。
もちろん俺はハルヒを愛しているため、同棲するなんて嬉しい限りだ。
ハルヒに触るなら俺の許可がいるってぐらいな。



つまり。



ここから始まる。



新しい話が。



俺とハルヒの永遠の物語が。


そして。


日常を生きる人々には体験出来ない話が。