涼宮ハルヒの幸福2-4



腰にタオルを巻き入浴してから約2分。

扉の向こう側でスルッ・・・ というような服を脱ぎ落とす音が聞える。
ボケヤたガラスの向こう側には肌色のシルエット。

「ふぅー」

溜息を吐けば響く広い浴場。

パサッ・・・

見た限り扉の向こうのハルヒは現在全裸。
全てが肌色で埋め尽くされている。

「入るわよー」

ガチャッと開く扉。


そういえばハルヒと一緒に風呂に入るのは何ヶ月ぶりなんだろうか。

タオル一枚を体に巻き入場してきたハルヒ。

久々の光景に俺はただみとれていた。

「どうしたの?」

「ん? いや、なんでも・・・」

ハルヒはニヤリと笑った。

「まぁあんたの事だから変な想像してたんでしょ?」

いつのまにか俺は変態扱いされている。
まぁ先ほどの発言で完全決定された俺は否定も出来ずにただハルヒを見ていた。

「あ、あんましジロジロ見ないでよ・・・」

顔を赤くするハルヒ。










何やってんだろうな俺。

ハルヒと一緒に風呂に入っている。 そんな事はわかっている。

なんでここまで会話が無いのか聞いているのだ。

「・・・」

何気に俺から距離をとるハルヒ。

なんかすんごく悲しい気持ちなんだが・・・

「ハルヒ・・・」

ボソッとつぶやいてしまった。
すると風呂の端っこにいたハルヒが

「何?」

と言いながら更に俺との距離を伸ばした。

「俺のこと嫌いか?」

何も思いつかなかったので言ってみた。
なぜ距離をとるのか知りたいしな。

「何よいきなり」

発言と発言の間には何の音もしない。
静かな時間。

「なんか・・・ な、こんなに距離とってるし近寄りたくないのかな、と思ってな」

「じゃぁ逆に聞くけど」

先に俺の質問に答えるべきだと思うが・・・

「わたしの事好き?」

ハルヒの方には振り向かず天井を見上げ一呼吸した。
そしてハルヒの方向を向いて

「当たり前だ」と。

しかし現在のハルヒにはかなりの精神破壊力があるためすぐに目を逸らした。
見慣れのリハビリをするまでは結構キツイな・・・

「そっ、ならいいわ」

風呂のお湯を揺らしながらハルヒは近寄ってきた。

「でも」

なんだよ条件つきか?

「わたしの方をちゃんと見なさい」

危険レベルmaxなミッションが始まろうとしている。

「いや・・・ それはちょっと・・・」

「言い訳なんて聞きたくないわ、いいから言われたとおりにしなさい」

言い訳なんてどうでもいいが・・・
見たら大事な何かが無くなりそうな気がする・・・

「って・・・」

いつのまにか密着しているハルヒ。
頭を俺の肩に置いて、体を寄せている。

「お、おぃハルヒ・・・」

もう見るどころの話では無い。
見る前に大事な何かが無くなる。  危険だ、エマージェンシーだ。





けど。




俺は何も対策をしようとはしなかった。


ハルヒがこのままでいたいなら、何時間でも止まっててやる。


それに。


俺自身がこんな時間を過ごしたかった。


一度は見えなくなった姿をこうして見ることが出来る。


ハルヒと喧嘩しようが別れようが俺は土下座でもなんでもしてやる。


「ちょっと・・・」
「ん?」


頭を肩から離すハルヒ。
もう終わりか?


「肩が震えてるわよ?」


わかってるさ、自分でも今どんな状況なのか。


「どうしたの?」


顔を見られる前に頭をお湯の中に沈めた。





「ぷはっ」


「一体何がしたかったの?」

不思議そうに俺を見るハルヒ

「結構鈍感だな、ハルヒも」
「あんたに言われたくないわよ」










静かな時間。

先ほどの盛り上がりとは比較にならないほどの。



「キョン」

「ん?」

「この後どうする?」


この後ねー。
何も考えていないが予定は一つだけ入ってるけど・・・

「それは最後、その間の話よ」
「テレビでも見ながらボーッとすればいいんじゃないか?」
「キョンも一緒に居てくれる?」

ハルヒの表情が少しだけ不安そうだった。

「当たり前だ」






その後、背中を流し合いながら変な会話を楽しんでいた。
いや別に変とは言っても変態的な事じゃないからな? 誤解するなよ?









「先にあがるわね」

体についた水がバァーッと流れ落ちながらハルヒは浴場から去った。

「ふぅー」

「別にキョンもあがってもいいわよー、気にしないから」

そんな事したら確実に大事なものが消えうせ俺の制御は利かなくなる。

「遠慮しとく」




















頭をタオルでゴシゴシと拭きながらと目線を色々な方向へいかせると。

「げっ・・・」

そこにはハルヒの下着が置いてあった。
何か見てはいけないような気がしたからそっと目線を逸らした。

それよりも脱いだ下着ぐらい持っていこうぜ・・・












「上がったぞっと」

扉を開けながら居間に入った。



「へっ?」


バタンッ


即行で退却して扉を閉めた。
ハルヒは『へっ?』と声を漏らしたが俺なんてもっと不意をつかれたね・・・

それよりもなぜハルヒは居間で上半身裸なんだよ・・・

なんだ? そんなに俺を崖のふちに寄せたいのか?

「入っていいわよー」


再び扉を開ける。


「なんださっきのは・・・」
「いいじゃない、ちょっと熱かったから通気性のいいやつに変えてたのよ」

なぁ、ハルヒさん。 スケてますよ?

「本当は見たいくせにー」

否定は出来ないが・・・   いや、だから違・・・

「ほらほらっ♪」

俺の腕にまとわりつくハルヒ・・・  当たっている・・・

「あぁぁ・・・」
悲鳴にならない悲鳴をあげながらそのままソファーに座った。

しかし。


「もっと恋人らしく座りましょうよ」

「恋人らしくってなんだよ・・・」

「こうするのよ」

俺の膝の上に座るハルヒ。
ちょっ・・・ と待て・・・

「なんだよこれ・・・」

クルッと周り俺の方を向くハルヒ・・・
顔が近いっ・・・!!!!

「キョン、顔真っ赤よ?」

そんなのどうでもいい・・・ 顔が近すぎる! 吐息が当たってる!

「ふ〜ん」

なにがふ〜んなのか知らんが更に顔を近づけるハルヒ・・・

「まぁ一応指摘しないでおくけど」

指摘するな。

「そうね、お願いを使うわ」

またか・・・

「予定を早めるからね」

!?







ちゅっ

と一発かましてからネジが外れてしまった。

いや、違う。

ネジが外れたのは。


ハルヒの方だ・・・