涼宮ハルヒの幸福2-1



「だから違うわよ」
「もう勘弁してくれ…」

あれから自宅についた俺とハルヒ。
そして俺が二か月いなかった罰とか言ってさっきからずっと肩を揉んでいる。
しかしハルヒは気に入らないようでずっと怒鳴りっぱなし。

「何度言えばわかるのよ」
「しょうがないだろ… 俺だって試行錯誤してんだよ…」

まず罰が肩揉みの時点でよくわからない…
もっと重い罰かと思ったがな…

「もう肩は終わりでいいから次!」
「次?」

次なんて予定は無い…
しかし現在は俺としてもハルヒの要望には全て受けたいからやってやるさ

「き、キョンの好きなところを揉んでいいよ…?」

ぁー… なるほどね…
前言撤回だ。
出来る限りハルヒの要望に応えたいで。

「バカ言うな…」
「うっさいわね… せっかくサービスしてあげてるのに…」

ぶっちゃけ本気でハルヒに触れたい…
2ヵ月も何もなかったからな… さっきの学校前だけじゃ足りない…
とうとう俺も変態っぽくなってしまった気がするが気のせいだろう。

「どうしたの?」
「ちょっと目つむっててくれないか?」
「え? い、いいけど?」

完全に目を瞑ったハルヒ。
何か期待してるのか? ハルヒの唇がこまめに動いているがキスなどしないからな。
しかし俺も男なため欲望に従えばとんでもない事をするだろうが…
別にやりたい訳でもなくやりたいくない訳でもない。
目を瞑っているハルヒ…
まぁ結構可愛いんだなこれが。

「ねぇ… まだ…?」
不安そうなハルヒの声。

まだっていうか何もする気は無い…
すまんな。

「もう目開けていいぞ」

するとハルヒは
「はぁ!? 何いまの!?」

ただ目瞑らせただけだが…
「なんのために!? あんた意味わからないわよ!」

暴走を開始したハルヒ。
ベットの上にある枕を俺に投げ付けてから布団を持ち上げそれも投げる…
そういえばこの枕と布団は2ヶ月ぶりの再会だな。
さっき帰国してから家に荷物だけ放り投げて北高まで走ってたからな…

にしても変わったなハルヒ…
前はとにかく甘えたがりやだったのにいきなりツンになったな…
回りを見渡せば懐かしい俺の部屋…
あぁ、そういえば帰ってきたら一番最初にアルバム見ようと思ってたんだっけ。

バフッ!

再び枕が投げ付けられた…
顔面に…

「逃がさないわよ!」
「逃げようなんて思ってない…」

仮にも医者に絶対安静と言われてる身だぜ?
頼むから静かにしてくれよ…

「この2ヵ月間どうだった?」

するとハルヒは考え込むような顔をしてから
「一つは、わたしは人気者って事に気付いたわ」

なんだこいつ… 自慢したいのか?

「あんたがいないのをチャンスと思ったのか男共がウヨウヨとわたしの周りをうろついて
たし」
「告られたりしたか?」
「何十回とされたわよ… 思い出すだけで気味悪いわ…」

気味悪い、だってよ、残念だったな。

「約束… 守ったんだな…」
「当たり前よ! 約束守らないやつが一番嫌いなのに自分が破ったら意味無いじゃな
い!」

俺は約束守ったが結構な時間が過ぎてしまったな…

「後もう一つあるわ!」

また自慢したいのか?
まぁ聞くだけ聞いてやるよ。
つまらない事ならこの枕を投げ付けてやるからな。


「キョンが世界で一番大切だって事に気付いたわね」






思わず枕を投げてしまった。
しかもハルヒの顔にクリーンヒットしてしまった…
あぁ、まずいのはわかっている。
しかしミスだ、人は誰もがミスをするはずだ。

「痛ったぁ…」

あまり強く投げてないつもりなんだが…

「すまんハルヒ… ちょっと失敗してしまった…」
「失敗!? これ以上わたしに痛い思いをさせるつもりだったの!?」
「いや、失敗はそういう意味では無くて…」
「最低よあんた! 嫌い! 大っ嫌い!」









ついにはハルヒは顔を両手で押さえて、うつ向いてしまった。
何やってんだよ… 俺…
散々飛行機の中で自分に言い聞かせてたじゃないか…
『帰ったらその日はハルヒに従おう』 と…

早速失敗だよまったく…
出来れば時間を三分程巻き戻してほしいね…

「すまない… ハルヒ…」

微動だにしないハルヒ…
『最低』か…

そうかもな…

「嫌なら別れてもいいからな?」


「なによ…」


「ん?」


「あんたは彼女が泣きそうだってのに何もしないの!?」



一体何をすればいいのかも分からないし、ハルヒが俺の事が嫌いなら何もしないでほしか
ろうに…

「好きに決まってるじゃない、大好きなのに…」



まったく… 人騒がせな彼女だな…


「少しぐらい… 慰めたりするのが彼氏じゃないの…?」
「大丈夫か?」

「違うわよ… 頭撫でてくれたり… 手を握ってくれたり…」



俺は一体なんなんだろう。
幸せ者なのか、現実逃避してんのか…
別れると言った時点で彼氏失格だよな…

とりあえずハルヒの横に座り抱き抱えてから頭を撫でてやった。

何日ぶりだろうか…

こんなに幸福を感じたのは…











「もう絶対に何も言わないで何処か行くなんて許さないから…」
「あぁ、わかってる」
「誓ってよ…?」
「肝に銘じておく」

これからハルヒに連絡無しに何処か行くのが×って事だよな?
コンビニとかも×か…?

「証拠…」


ぼそっと呟いたハルヒ。
証拠か… 本日二回目な気がするのだが…
まぁ誓ったんだ、証拠ならいくらでもあるぜ?










「行きましょ」
「ん? どこへ?」
「2ヶ月何もしてなかったからその分遊びに行くのよ!」

なるほどね、賛成だ。









外へ出ていきなりハルヒは俺の手を強く握り締めた。
「なんでそんなに力が入ってるんだ?」

ハルヒは俺の顔を見ずに
「もう離したくないから…」
と呟いた。

当たり前だが俺も離したくない。
久々の感触だな…
人の手ってこんなにも温かかったんだな… 忘れてたよ。

「ねぇ、キョン」
「なんだ?」
「ここ… 何処…?」
「うん?」

目の前に広がる光景は、俺から見れば記憶の奥深くに眠る場所だ。

「そんな事はわかってるわよ、なんで大通りに人が一人もいないかって聞いてんの」
始めからそう言えばいいのに…

しかし奇妙なものだな… 人の気配がまったくしない…
確かここは深夜帯でも少人数だが人が通る場所なのに、こんな真っ昼間に人がまったくい
ないなんて…

「みんな忙しいんじゃないのか」
「そ、そうよね」
「なんだよ、ハルヒらしくないな」
「え?」

ハルヒならいつも
『これは超常現象ね』だの『宇宙人の仕業』などと言うかと思ったが…

「わたしだってもう大人よ? そんな考えは捨てたわよ」

それはそれで残念な気もするが…

「じゃあ、もしも俺が超能力者だったらどうする?」

俺に超能力が使えるなら今すぐテレビ局に電話して出演させてもらうがな…

「そうね、超能力が受け子に継がれる可能性も… そうだ! キョン!」

子供の話をするんじゃないだろうな…?

「子供作りましょ!」


大通りで大声で…
人がいたらとんでもない事になっていたが… よかった…

「まだ結婚も婚約すらしてないじゃないか…」

「じゃぁキョン! 大学卒業したら結婚しましょう!」

逆プロポーズを受けてしまった…

「俺でいいのか?」

「なによ今更ね… あんたはわたしがいないと生きていけないから、わたしが助けてあげ
るからね?」

何か不満を感じる逆プロポーズだったが… まぁいいか。

「卒業したらな」

「じゃぁ今日、子作りしましょ!」

さらにとんでもない事を言い出すハルヒ…

「だから結婚すらしてないだろ…」
「はぁ? 早くやっとけばお互い逃げる事も出来ないしいいじゃない!」
「ぁー、いや… そうじゃなくて…」
「出来ちゃった結婚なら簡単に両親にも認めてもらえそうだし、ね」

その代わりに俺は両親からいたぶられるがな…
「どうする? 今からラ「ハルヒ」行く?」

いいタイミングで発言出来たな。

「喋ってる最中に邪魔しないでよ」
「しるか、俺はまだ子を作る気は無いからな」
「なんでよ、わたしの事嫌いなの?」
「違うって」
「じゃぁなんでよ」

決まっている


「絶対安静」





「ぁぁ… そっか…」
「お前はもう少し他人の事を考えてから行動しろよ…」
「ごめん…」

謝るハルヒ程、珍しいものは無い。
あながちそんな姿も可愛いから好きなんだけどな。

「じ、じゃぁ自宅なら問題ないんじゃない…?」

こいつは俺がいない間に相当バカになったのか?

「わかってるわよ… バカ…」

バカ言うな…

「わたし…」
「ん?」

「最初は女の子がいいから…女の子の準備しといてね…?」





俺にそんな高等な技術は出来ない上に出来る奴がいるのなら今すぐ教えてくれ。
出来ればハルヒの要望通りに女の子にしたいからな。



それに。


そんな事をしなくても女の子が生まれる確率は100%だけどな。

俺の人生を賭けてもいいぜ?








ハルヒは鼻歌をしながら俺の手を引っ張ってズイズイと歩いて行った。



「なぁハルヒ」
「なに?」


「お前の体内で女の子が生まれるように設定は出来ないのか?」

かなり調子にのってしまったようだ…

「バカ… 元はあんたでしょ…? エロキョン…」


言わなければよかった…



















後々長門から聞いた話だが。

「あなたたちは6分27秒間閉鎖空間に閉じ込められていた」

場所は大通り。 あの時間は現実ではいつものようにわんさかと人はいたらしい。

しかし閉鎖空間のわりにはカラフルだったが?

「新しい閉鎖空間、でしょうかね」

口を挟むな古泉。 俺は本当の事実が聞きたいんだ。

「本当」

長門が言うなら本当なんだろうな… 信じてやるよ。

「神人の出現は感じませんでした、いわゆる二人の世界、というものを涼宮さんは作り出
したのでしょう」
「なんか進化してないか?」
「日に日に彼女の能力が強まっているのでしょうね」
「それって結構やばくないか?」







「あなたが制御してください」



「まて、俺にはむ、、、」

「みんなー、何話してるのー?」

「彼女は高校時代のように簡単に閉鎖空間は出さないようになりました」
「強まっているんじゃないのか?」
「それもそうなんですが」
「どういう事だ?」

「キョン! 古泉君! 早くしないと置いて行くわよ!」

「簡単に言わせてもらいます」
「なんだ」



「ただ今とてつもない事が起こっています」
「は?」

「機関の方でも予想外らしく大変荒れています」

「なぜだ?」

「涼宮さんの、、、」

「わたしがどうかしたの?」

気付かないうちにハルヒはすぐ隣に来ていた。

「いえ、彼が涼宮さんを幸せにするにはどうすればいいかと相談を受けていたところで
す」

そのスマイルやめれ…
お前も随分と嘘がうまくなってるな…

「わたしは今のままで幸せよ、キョン」
「ならいっか」
「早く行くわよー」

ハルヒは小走りで朝比奈さんの近くに走っていった。

「いづれかお話する機会があるでしょう」
「今は?」
「また涼宮さんに怒られたいのですか?」

まぁいづれかじっくり聞いてやるよ。

「行きましょう」
「あぁ、そうだな」




「あっ、やっと来たわね、今日は何の日か知ってる?」





あぁ、知ってるさ。