涼宮ハルヒの幸福13 12/28






赤いもの…光…
終わりを告げるかのような着信音…


『♪♪〜〜♪〜』
取る気にならなかった。
画面には古泉と表情されている。
閉鎖空間か? すまないな…
もう生きる気力すら無くなっちゃったんだよ…
終わってもいいよな…
ここで…

















携帯の赤いランプで暗かった部屋に少し明かるくなった。

机に携帯が置いてある。
「ん…?」

気になるものを見つけた。
机の端に置いてある一つの封筒。
右手に持っていたカッターナイフを机に置いて封筒を手にした。

何が入っていたんだっけ…?
商品券なら妹に上げてやる。






中身に入っていたのは。

『なんでも言う事聞く券(一回のみ)』








懐かしいな…
確かコレ最後まで使わなかったんだっけ?
結局一つしか手に入らなかったんだったよな…。



懐かしいな… ほんと…
結局… ハルヒに頼ってばかりだったな。
なぁハルヒ、お前は本当は俺にもう飽き飽きしてたんだろ?
本当は他の男がよかったんだろ…?
本当は… 本当は…

封筒に何粒も水が落ちていく。
ハルヒとわかれるなんていやなんだよ…
ハルヒ…




電話していいか…?
お前と話したい…
迷惑だよな…
やっぱ… 全て終わろう…









『♪〜♪♪〜〜』

なんだよ、もうおわり…た…い…

ハルヒ…?


急いで携帯を取った。
「ハルヒッ!」
『ど、どうしたのいきなり!?』
「あっ、すまん… ハルヒこそ急に電話して、どうしたんだ?」
『うん…声が聞きたかったんだ…』
「そうか…」
『どうしたの…?』
「嫌だよな…」
『え?』
「こんな俺なんかが彼氏だなんて… 笑っちゃうよな… ハハッハハハ…」
『何言ってんのよ』
「ハルヒは本当は俺が嫌いなんだろ?」
『バカァッ!』
ビックリした… いきなり叫ぶから…
「ごめんな… ごめんな… ハルヒ…」
『次謝ったら殺すからね…』
「辛いんだろ… もういつでも別れていいからな…」
『ふざけんじゃないわよ…』
「もう俺の事なんて忘れていいからな… お前に合う男性ぐらい星の数程いるから… 大丈夫だ…」
『本気で言ってるの…?』
「あぁ… 多分… もう長くないと思う…」
痛みがかなり出てきてるんだ…
「だから、もう… 死のうと思う」
『嘘でしょ…?』
「ただハルヒに辛い思いをさせるだけならもう…」
『嘘よね… キョン…? ねぇ…』
「俺は今まで十分過ぎる程にハルヒと楽しんだ…」
『待ってよ… わたしはまだ十分じゃないの… 一人で行くなんて許さないから… だから… お願い…』
「俺の代わりなんていくらでもいる…」
ハルヒは泣いていた…
電話の向こうで…
『だからって… そんなのずるいよ…』
「お前の悲しむ顔は見たくないんだよ!!」
俺は怒鳴った。
『だったら…』
「俺だってまだお前と別れたくないんだよ! 本当は全然たりねぇんだよ! まだハルヒの傍にいたいんだよ! いやなんだよ!」
『じゃぁ… 別れるなんて言わないでよ…』
「いやなんだよ! それ上にハルヒの悲しむ顔が見たくないんだよ!」

俺は必死にこらえていた悲しみが一気に爆発して泣き始めた。




「大好きだ! ハルヒ!」

ピッ。

電話を切った。
それ以上ハルヒの声が聞きたくなかったから。

『♪〜〜♪♪〜〜』

「ハルヒか…」

それから数分鳴り続けた。
あきらめたのかな…?







『りりん♪ ♪〜』






あきらめてなかったか…
嬉しいよ…





すぐにメールを開いた。








『死なないでよ』






この文だけが送られてきた。
まるで時間稼ぎのようなメール…
そうだな… 少しだけ待ってやるよ。

『りりん♪ ♪〜』

着たか。







『わたしもキョンが大好き、明日話そ? 朝早くに行くから。 いいよね?』




これだけ心配してくれる人が俺にもいたなんて…








『わかった。待ってる』

送信っと。






バカだな、俺…





もしハルヒから電話が無かったら本当に死んでたかもしれなかった。

寝よう。
明日のために。





























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ピンポーン。



俺は部屋で待つ事にした。




ダッダッダッダダ

ガチャッ。

「よぉ、ハル…」
部屋に入ってきて早々ハルヒは俺に抱き付いてきた。
「バカ… バカキョンッ!!!」
「ごめ、、、」
「謝ったらどうなるかわかってるんでしょうね!?」
「ハルヒ…」
「許さないから…」
「何がだ?」
「勝手に電話を切った事!」
なるほどね…

でもよかった…
もしハルヒが電話して来なかったら俺は死んでたかもな…

「なんであんな事言うのよ…」
「うん?」
「なんで死ぬなんて言ったのよ!」
ハルヒの目は潤んでいた。

「それがあんたの望んだ人生なの!?」
しかし安心したような表情だった。

「ちょっと血迷ってた…」
「絶対に許さないから…! もしまだその気があるならもうずっと離れないから…!」
「しかし…俺は…」
「まだそんな事言うなら縄でグルグル巻きにして動けなくするから…」
「おぃおぃ…」



ハルヒの笑顔が絶えなかった。
ずっと守ってやりたい笑顔。
俺だって… まだ離れたくない…


「ハルヒ、教えてやる」
「ぇ?」







俺は自分の症状をハルヒに全て教えた。









ハルヒはかなり驚いたような顔をしていた。

「手術・・・成功率… 低いの…?」
「あぁ」
「失敗したら…?」
「終わるだろうな…」
「うそ…」
「ハルヒ」
「だめ…」
「俺は手術し…」
「やめて…」
「じゃぁ俺が苦しむ姿が見たいのか?」
「っぅ…」
「ハルヒのおかげで俺は生きようと思った… 無駄にしたくないんだ…」
「キョンは… キョンは…!? わたしと別れたくないんだよね!?」
ハルヒからは笑顔が消えて涙が流れていた。

「当たり前だ」
「手術するって言うなら別れる! こんな早くに終わるなんて許さない!」
ハルヒはボロボロと大粒の涙を流していた。

「残念だけど… お前には今回選択権が無いんだ」
「意味分かんないわよ!」

俺は机に手を伸ばして昨夜見つけた封筒をハルヒに渡した。
「何コレ…?」
「見てみろ」

ハルヒは恐る恐る封筒を開けて中身を出した。

「これって…」
「懐かしいだろ?」
「うん… まだ持っててくれたんだ…」
「こんな一枚の紙切れでも人の人生が変わるんだな…」
「卑怯じゃない…」
「な、ん、で、も、だろ?」
「バカキョン…」
ハルヒは紙を封筒に入れて俺に突き返してきた。
「な、なんだよ」
「いいわ、これは別の時に使いなさい」
「そうか…」
突き返された封筒…
染み付いた後がいくつも残っていた。
ハルヒの顔には笑顔が戻らなかった。
見るだけでもその顔からは不安の色がハッキリと映っている。


「そうと決まれば、電話するかなっと」

椅子から腰を上げた。

「待って…」
ハルヒは俺の裾を掴みその場に座り込んでいた。

「わたしのお願いを三つ聞いて…」
「なんだ?」
「一つ目、今日は電話しないで…」
「なんでだ?」
「二つ目」
ハルヒはアッサリと俺の発言をスルーした。
「はぁ…」
「今日はわたしの家に来て… それで…」
「わかってる、もしかしたら最後になるかもしれないしな」
ハルヒはコクリと頷いた。
「行こうか」
「うん」

ハルヒは腰を上げて俺に寄り添ったまま家を出た。







今日一日を最高の日にしよう。
今まで生きてきた中で。
最高の日に。
でないと後悔するかもしれない。
ありがとう。 ハルヒ。











ハルヒの家に入ってから寝るまでずっとやり続けていた。
いくら疲れようが、ずっと…
こうしていられるのが幸せだった。
ハルヒに愛されている事が…
全て、幸せだった。















「キョン…」
「なんだ…?」
「わたしね、キョンがいなくなっても誰とも付き合わない、キスもしない… 約束する…」
「そうか…」

嬉しかった…
俺を一人の男として見てくれてる事が。