It had hidden -四日-


残り、四日。 朝。

今ほどワープという機能が欲しいと思ったことは無い。
昨日は散々な目にあったため、足取りが重い俺は慣れたはずのロングロードを苦痛を感じ
ながら歩いていた。
「はぁー…」
溜息をついたところで誰にも聞かれないため何か意味のないような気がするが… まぁい
いさ。







ガラガラガラ。

「よっ、キョーン!」
教室に入ったら第一の刺客が待っていた。
今は喋りたくないのだよ。
「なんだよ、元気ねぇなぁー」
「いや、ちょっと色々あってな…」
すると谷口はフッと笑った後に
「恋の悩みなら受けてやるぞ?」
「じゃぁいきなりだが、いいか?」
すると谷口は驚いたような顔をした後に
「キョンが恋? これは面白いな、いいぜ」
残念ながらフザケた、すまん
「嘘だな、今のお前の顔は女の事で悩んでいる」
まぁ半分正解だけどな。
「そうだ」

俺は席に着いた。
くそ重い鞄を横にかけて体を休めた。

「4組のとある女子がいるんだけどさ、あ、ただの昔からの友人だ」
「で、なんだよ?」
すると谷口は回りをキョロキョロと見回してから、超小声で
「お前が好きらしいぜ?」

まぁ、なんだ、ふざけるのも大概にしろ
「嘘じゃねぇよ! ほら、これみろ」
俺の机にメモ用紙を叩き付けた。
えー、何々?

『こんな形での告白になってしまって、すいません!
谷口君にお願いした通りに伝わっているならいいのですが。
私はあなたの事が好きです。
でも、もし今あなたに彼女がいる、または、好きな人がいるのならば無視してもらって
構いません。』

その下にアドレスが書いてあった。
字はかなり女性っぽい字だったので悪戯の類はないだろう。
しかし残念な事に俺は…

「谷口、ありがとう」
「で、どうするんだ?」
「お前がしった事じゃねーよ」
まったく、俺が告白されるなんてな…
この三年間で絶対に無いと思ったのだが… まぁ人生何があるかわからないってことだ。

谷口が机に戻ったのを見計らって

「よっ、ハルヒ」
「黙れ」

普通に怖かった。
なにか声に毒が込められていたような…

「昨日は本当にすまんかったって!」
「うるさい」
クラスの連中の視線が少しづつ集まるのを感じた…
見るなよお前ら… 見せ物じゃねぇよ。

「どうすれば許してくれるんだよ」
「あんたなんて身勝手な女に振り回されてロクな人生を歩まず死ねばいいのよ」
ハルヒは黙り込んでしまった。
本当に何がしたいんだよ…
しかも相当怒ってるな…

俺も、ゆっくり振り返り頬杖をついた。
もう諦めようかな…?
どうせ後五日しかないんだしな…

「んぁっ、そうだ」
忘れるところだった、わざわざ声を出す必要はなかったが。
メールしとかないとな…

えっと…

『すまんが断らせてもらう。
誤解はしないでほしい。
君が嫌いというわけでは無いんだ。
実は… 俺は四日後に…


送信っと。
まぁ気持ちだけは受け止めよう。 ありがとう。

「ハルヒ、お前にも言わないとな」
「喋んないで、あんたの声を聞くだけでムラムラするわ」
ハルヒは頬杖をついて窓の外を眺めていた。
「聞け」
「うるさいわよ」
「俺は部活を辞める」
しかしハルヒは微動だにしなかった。
「で?」
で? って…
「一応伝えとこうと思ってな、まぁ後三日はいるけど」
ハルヒはこちらを振り向いて
「ちゃんと退部届け出しなさいよ」 と

しかしハルヒの表示は入学式にこいつと変わらなかった。
いかにも理由を追及したくない、勝手に辞めればいい、という顔だった。

だが俺は悲しく感じた。

本当を言えばハルヒに一番心配してほしかった。

入学してからおもいだせばハルヒとの思い出ばかりだ。
何かと言えば最終的には一緒にいたしな。
俺も楽しかったさ。
合宿にも行った、野球もした、映画だって作った。
一般の高校生から見れば羨ましい生活だったはずだ。
後五日で終わると思うと… 本当に悲しくなる。
だから後五日は楽しみたい…
だけど… ハルヒは不機嫌だ…
理由なんて決まってる、昨日だよな…










つまらん授業もやっと終わり部室に向かう。
あまり気が進まないのだがしょうがない…



ガチャッ



「あっ、こんにちは」
ポットの前でお茶をそそいでいた朝比奈さんが振り向いた。
それと同時に古泉も振り向き俺に頭を下げた。

「すまないな」
なんとなく謝罪してしまった。
「どうしたんですか?」
朝比奈さんが俺の顔を覗きこむように見えた。

「五日後ですか?」
さすが超能力者だな、正解だ。

「あなたの移動は規定事項、謝る必要は無い」
本から目を離しこちらを見る長門。
「まぁ、俺がいなくても三人がついていれば大丈夫だよな」
「それは無理な話ですね」
古泉の右手に持っていた飛車が王の一直線上に振り下ろされた。

「俺はただの人間だぜ?」
「あなたも鈍い人ですね」
むっ、失礼なやつだな…
これでも俺的によい人生を送ってるつもりだ。

「あなたのおかげで涼宮さんはここまで落ち着いたのですよ?」
何度も聞いたことのある台詞だな。

「結局、俺は意味あったんだよな?」
投げやりに聞いてみた。
すると朝比奈さんが俺の前にお茶を置きながら、
「大ありですよ!」 と。

あなたのその笑顔が見れるのも後数日ですね…

「キョン君はわたしにとっても、このSOS団にとっても大切な存在ですよ!」

少々、目頭が熱くなった。
だがこんなところで恥ずかしい一面を見せるわけにはいかない。

「一戦、どうですか?」
盤の上の駒が綺麗に揃っていた。

「臨むところだ」







数十分後。

ただパチッという音だけが部室に広がっていた。
するとそこに。

ガチャッ




久々に無言で部室に入ってきた団長。
顔は明らかに不満気だった。
確かハルヒは今日、掃除当番でもなくフリーなはずなのになぜ遅く来たんだ? まぁいい
か。

「降参です」
知らぬ間に王を詰めていた。
ううむ… 結構才能あるのか?


ハルヒは鞄を床に落としてパソコンの電源をいれた。


「ハルヒ」
「なによ」

少し意外な発言が返ってきた。
「うるさい」とか「黙れ」とか言うと思ったが…
「明日は市内探索するのか?」

そう、何を隠そう明日は土曜日。
学生諸君たちにとってハッピーデイの始まりだ。

「しない」

そうか… 久々の休みか。
まぁ俺も色々と準備したいしな。

「古泉、最終決戦は月曜日な、最後なんだからいい勝負をさせてくれよ?」
「承知しました」
まぁこいつの事だから結果は変わらんだろうがな。

「じゃぁな、先に帰る」
「え?」

予想外にもハルヒの声が最初にあがった。

「え? じゃねぇよ、それじゃあ」

バタンッ




夕暮れの紅蓮に染まる廊下。
この風景がみられるのも後二回のみ。
まったく… 親も急すぎるんだよな…
何が五日後に“引っ越し“だよ…
しかも場所がここからかなり遠いいじゃないか…

まぁ、人間だれしもこんな状態になるよな。
いくら完璧な人間だって弱点ぐらいあるさ。
そうだろ? 最強のボスがいても最後は倒せるんだよ。

一年以上見てきた校舎は一風も変わらずにそびえ立つ。
北校か… 文化祭はおもしろかったよな。

特にハルヒのあの歌うセンスには驚いた。
普通に歌手になれそうだよな…


次に登校する日が最後だからな?
そん時は歓迎してくれよ? 校舎よ。














帰宅。

とりあえず着替えてからよーく、考えてみた。



これでいいのか?





俺よ、本当にこれでいいのか?
こんな終わり方でいいのか?
一番心配してほしかったやつに嫌われてるじゃないか。
バカだな、自分がおかしいと思わないのか?
今日だって寂しかっただろ?
後ろの席から一度も声をかけられずに大切な一日を終えたんだぜ?
本当は構ってほしかったんだろ?

涼宮ハルヒに。








「はぁー…」

自分に嫌気がさしてきた。
今ごろ気付いたんだよ。

俺はハルヒが好きなんだな。

昔は1ミクロンもそんな事を考えなかった。
だってそうだろ?
性格があんなんだったら好きになるはずがない。


だけど今は違う、変わった。
だから好きなんだよ。

でも後数日。
今更告白したところで意味の無い事ぐらいわかっている。
だけど思いは伝えたいよな。

どうせ振られるだろうがな…
あんな不機嫌な状態で告白するほうがおかしいよな。
チャレンジャーだよ。

俺はそんな事する気は無い。

だけどな、何やってんだ俺?
新規メール作成画面で宛先はハルヒ、本文は
『お前が好きだ』
送信途中でキャンセルしたからいいが…
あぶなかったぞ?

もし届いていたら合わせる顔が無い。
俺よ、まだ早まるな。